周産期関係

助産師の世界と妄想 32 <「正常」へのこだわりがあちこちからハシゴをはずす>

臨床で働いている多くの助産師や看護師が経験した症例報告から必要なケアを探り当てるというシステムがない助産師の世界は、いつの間にか力を持った団体が現場のニーズとは程遠い研修や制度を作っていくことが、乳腺炎の診療報酬の件でもわかりました。 そし…

もし、あの頃、こうしていれば  3 <10年やってわからなかったコツが20年やってわかる>

10年やってわからなかった怖さを20年やって知るのがお産です。 30年たって、ますます「こんなことが起こるのか」という怖さを実感しています。 ですから、私よりはもっと稀で深刻な状況に日々対応されている周産期センターの方々が、「お産にはマンパワーが…

正しさより正確性を 15 <「電話等再診」や「時間外対応加算」>

妊娠・出産・育児中の方にとって妊婦加算のような支払いが増える話に驚かれるかもしれませんが、他にも加算されたという経験がある方もいらっしゃるのではないかと思います。 それが「電話等再診」あるいは「時間外対応加算」です。 妊娠中や産後に体調が悪…

正しさより正確性を 14 <周産期の福祉の歴史のようなもの>

妊婦加算の話題で真っ先に思い出したのが、現在、当たり前のように使われている妊婦健診の無料補助券が14回分になって、ほぼ全妊婦健診が基本無料になったのが2009年だったことでした。 では、それまではどうだったかというと、案外、こういうここ20〜30年の…

正しさより正確性を 13 <妊婦加算と妊娠中の受診について>

2018年12月14日付で「妊婦加算を凍結、厚労省が表明」というニュースがありました。 その前から、ネット上で批判が高まったことがこの一因なのかもしれません。 根本匠厚生労働相は14日の閣議後の記者会見で、妊婦が病院で診察を受けると自己負担が上乗せさ…

もし、あの頃、こうしていれば 2 <経験を積んだ助産師は産科診療所へと>

正直なところ私は全国の助産師の全体像を知るほどの立場にもないし、まして産科医や小児科医など周産期医療全体についても漠然とした情報しかないのですが、「もし、あの頃、こうしていれば」2004年の産科崩壊と言われた時期ももう少し違っていたのではない…

もし、あの頃、こうしていれば 1 <これからの周産期医療はどこへ向かうのだろう>

「歴史にもしはない」とか「歴史にもしは禁物」とどこかで耳にしてきたのですが、それはどういう意味で、どこから言われ始めたのだろうと検索して見ましたが、わからないとする説明ばかりでした。 干拓とか用水路とかの歴史を探って歩いていると、歴史とは何…

アドバンス助産師とは  15 <乳腺炎の診療報酬>

数ヶ月ほど前、友人の助産師から「乳腺炎の診療報酬にもアドバンス助産師の資格が必要になるらしい」という話を耳にした時には、なぜそうなるのか繋がりがよく理解できなかったのでそのまま聞き流していました。 私の勤務先では医師からもそういう話は聞いた…

助産師の世界と妄想  30 <助産師会の情報戦>

うさぎ林檎さんの記事経由で、日本助産師会の「創立90周年記念誌」を知りました。 助産師なのに助産師会の出版物も知らないのかと思われるかもしれませんが、私は助産師学生の時にほぼ半強制的に入会した1年を除いては無関係できました。 助産師になりたての…

助産師の世界と妄想  29 <助産師会の「ホメオパシー問題」とは>

ふだんブログの記事を書き溜めているのですが、ホメオパシーのことを下書きに入れた日に、うさぎ林檎さんがほとぼりは冷めたのか?を書かれていてちょっと鳥肌がたちました。 同じ日にホメオパシーについて書いていたことに鳥肌が立ったのですが、まあ、これ…

専門性とは 5 <専門雑誌とは何か>

前回の記事で紹介した「林業情報」という雑誌の「論壇」を読んで、これが専門職の雑誌なのかもしれないと助産関係の出版のことを思い返していました。 内容が「専門用語でその知識に手も足も出ない」のであれば、助産関係の雑誌もそう変わらないかもしれませ…

出産・育児とリアリティショック  14 <産後の記憶がない>

ずーっと気になっていることがあります。 経産婦さんの多くが、「前のことを忘れた」とおっしゃることです。 初産と経産の違いに書いたように、お産も授乳も赤ちゃんの接し方も天と地ほどの差があるように感じるほど、前回の経験が生かされているように見え…

助産師の世界と妄想 28 <舌小帯に原因を求める>

週末になると、「舌小帯切除は不要」という記事へのアクセスが必ずあります。もしかしたら、だいぶ前に新生児科の先生のtweetで紹介してくださっているのを見たような記憶があるのですが、今もそれを見て訪れてくださる方がいらっしゃるのかもしれません。 …

事実とは何か 41 <妊産婦の自殺はまだ把握されていない>

文春オンラインに、「『産後うつ』が行政にも医療現場にも見過ごされてきた理由」(2017年9月24日)という記事がありました。 タイトルを見ると、臨床の私たちや社会にここ20年ほどで定着した産後うつについての理解はどう捉えたらよいのだろうととまどいま…

院内助産とは 32 <イメージだけで広がった結果はどうか>

4年ぶりの「院内助産とは」の記事です。 最近、助産師界隈でもめっきり見聞きすることのなくなった「院内助産」ですが、先日ひとつのニュースがありました。 7年ぶりに常勤産科医 横須賀市民病院、市長「ほっとしている」 2017年8月31日(木)、神奈川新聞 …

事実とは何か 39 <産科診療所での無痛分娩>

今年になり無痛分娩のニュースが増えたのは産科麻酔の実態把握のための一歩だととらえていたのですが、「麻酔科医がいないところでは危険」「診療所では危険」という雰囲気のニュースが目につくようになりました。 このまま、無痛分娩が産科施設の集約化のた…

運動のあれこれ 3 <「挑ませる」ものには注意>

私が勤務先の産院で出会う女性は、ひと頃の「自然に生みたい」「母乳だけで育てたい」という熱が過ぎて、「無事に生まれればそれで十分です」「必要があれば医療処置を早めにしてください」「必要があればミルクも足します」という方がほとんどです。 思い返…

行間を読む 67 <「若手小児科医に伝えたい母乳の話」>

災害時の授乳について、過去記事のまとめを作ろうと読み返していたのですが、「『災害時こそ母乳』は誰に向けたメッセージだったか」で紹介した、日本小児保健協会の「災害児乳児栄養情報(栄養委員会)」を読み返して、あることに気づきました。 2012年の時…

産科診療所から 18 <「役割拡大」よりも「縮小」を、そして「業務の手順化・標準化」を>

日本国内の「専門看護師」「認定看護師」あるいは「特定行為看護師」(いわゆるナースプラクティショナー)の議論はもうなにがなんだかよくわからないのですが、そういうあらたな資格を勧めたい人たちというのは、どちらかというと点滴の血管確保さえ医師が…

産科診療所から 17 <産科麻酔の実態の把握のための一歩>

今年度に入ってから、「無痛分娩」 の事故についてのニュースをよく目にするので、何かと心がざわついていたのですが、「日本の妊産婦を救うために2015」につながる「妊産婦死亡の全体を把握するシステム作り」がここ十数年でようやくできあがりつつある流れ…

行間を読む 64 <「日本の妊産婦を救うために2015」>

看護学生時代の麻酔科の教科書を思い出していたら、もう少し麻酔科の歴史を知りたくなって、医学・看護関係の本を扱う書店にぶらりと出かけてみました。 残念ながら求めている本には出会わなかったのですが、こちらの記事で紹介した厚生労働省の研究班が出し…

記憶についてのあれこれ 114 <30数年前の麻酔科の授業>

前回の記事で紹介した産科麻酔の本を読んでいると、私が看護学生だった1970年代終わりから80年代初めの頃の時代が、遠い大昔のように感じてちょっとめまいがしそうです。 以前書いたことがあるのですが、私は卒業したら手術室勤務を希望していました。 残念…

事実とは何か 34 <全体像を把握するためのシステムづくり>

先日の無痛分娩のニュースが気になり、手元にあった「これだけは知っておきたい! 産科麻酔Q&A 第2版」(照井克生氏、総合医学社、2013年)を読み返していたら、そのニュースにでてきた「研究班」の話が目に入りました。 冒頭の本の「Q4 麻酔が原因での母体…

無痛分娩についての記事

「無痛分娩」という言葉は、かなり人の心をざわつかせる言葉なのかもしれません。 その方法が好きか嫌いか、その方法を導入することが正しいか間違っているかなど、なにかと気持ちが前面に出てしまって、現実には何をどうしたらよいかということが見えにくい…

事実とは何か 33 <無痛分娩のニュース>

先月16日に、日本産婦人科学会で厚生労働省研究班が無痛分娩に関して「緊急提言」を出したというニュースに引き続き、4月25日には施設名を明らかにした「『無痛分べん』で女性死亡 医師を書類送検へ」というニュースがありました。 そうつながっていたのかと…

産後のトラブルを考える 24 <「便失禁診療ガイドライン 2017年版」>

先日、日経メデイカルからさんが教えてくださった、「便失禁診療ガイドライン 2017年版」(日本大腸肛門病学会、南江堂)を読んでみました。 日経メデイカルからさん、ありがとうございます。 その前文には、「便失禁は日常生活のQOLに大きく影響する排便障…

正しさよりも正確性を 4 <正しさだけではつじつまがあわなくなる>

私がkikulogというサイトを知ったのは、助産師の中に広がるホメオパシーって何だろうと検索していた時でした。 2009年の初めの頃だったと思います。 その中で、ご家族がホメオパシーにのめり込んでしまった方が、ホメオパシーの研修会を開いていた日本助産師…

正しさより正確性を 2 <ビタミンKを否定する感情の背景にあるもの>

ごくごくたまになのですが、妊婦健診中に「生まれた赤ちゃんにK2シロップを飲ませたくない」とおっしゃられる方がいます。 どのような情報をきっかけにそのような気持ちになられたのかは、健診中の短時間の会話では推し測れないものがあります。 ある方は、…

乳児用ミルクのあれこれ 41 <周産期・小児の専門栄養士なんてどうでしょうか>

乳業会社からの栄養士さんとは距離を置いていた私ですが、日本で10年遅れぐらいで「途上国のミルク批判」が広がったのと逆行するように、2000年代に入る頃からはこうした乳業会社の栄養士さんの置かれている状況に関心が出始めました。 どのような動機でこの…

乳児用ミルクのあれこれ 39 <日本では誰がどのように乳児用ミルクの説明をしているのか>

先日、ぶらりと散歩をしていたら、栄養専門学校の前を通りました。 ちょうど国家試験も終わり、就職先が書かれた紙が張り出されていました。 病院に就職が決まった方もいらっしゃれば、官公庁という方もいらっしゃいました。 「栄養」という専門知識と技術を…