医療介入とは 79 <「助産師業務要覧」と超音波診断機器>

助産師の業務について根拠となる法令と解釈について書かれた「助産師業務要覧」が、日本看護協会から出版されています。


2008年の「新版 助産師業務要覧 増補版」の序文を読むと、1970年に初めて出版されたようです。
その後、1990年には法令だけでなく助産師業務の実務上の指針や基準の目安となる業務編が発行され、1997年には二つを統合して現在のような「助産師業務要覧」に至ったようです。


昨年にはさらに内容が改訂されて新版第2版が発行されましたが、「基礎編」「実践編」の2冊に分かれて総ページ集が600ページ以上になりました。


多少、文字が大きくなったので、実質の内容量がそれほど増えたわけではないのかもしれませんが、それでも私が助産婦学校を卒業する頃はまだ、普通の書籍の大きさでしたから、助産師業務もまた時代の変化とともに複雑になってきたことを感じます。


少し、横道にそれますが、昨年に「新版 助産師業務要覧 第2版」が出版された時に私が一番期待したのは、「助産師と代替療法」「開業と代替療法」そして「代替療法リスクマネージメント」が新たに追加されているだろうということでした。


ところが、助産師と代替療法について一言も触れられていませんでした。


あー、これで私たちは助産の専門職ではなく、「21世紀初頭の助産師には魔女がいた」と後世に伝えられるのだろうという絶望感がありました。


本当に、自律した専門職ってなんでしょうか。


<2008年版「助産師業務要覧」の中での超音波検査>


さて、学生時代に購入した1980年代の「助産師業務要覧」は処分してしまったのか手元にないので、今回は2008年と2012年にそれぞれ出版されたものの中で、超音波検査がどのように書かれ、法的な解釈をしているのかみてみようと思います。


2008年の「助産師業務要覧」は「新版」として2005年に最初に出版されたもののようです。
当時は、「どのような助産師を育てたいのか」で書いたように、「医師のいないところで妊娠・出産を管理し、処方や処置まで助産師にみとめさせる」ような業務拡大への動きが顕著になってきた印象があります。


出産の場での業務拡大だけでなく、助産師は思春期から更年期まで「全ての女性」を対象としたリプロダクティブ・ヘルスの担い手という、保助看法上にはない解釈を広げようとし始めていました。


ですから、450ページほどのその助産師業務要覧ではICM(国際助産師連盟)が示す助産師の業務範囲やリプロダクティブ・ヘルスについてかなりのページをさいています。


その2008年版では、超音波診断機器については「医療事故防止」の「5)周産期医療の特殊性と法」の中で次のように書かれています。
長文ですが引用します。

(3) 異常の早期発見の責任


 異常の早期発見は助産師の重要な責務である。妊娠経過中の定期検診時がいうまでもないが、特に陣痛発来から分娩に至るまでの数時間は、母児ともにストレスの負荷が強いだけに容易に異常へ移行しやすいものである。異常を早期に発見するための条件は、専門的知識および技術、継続的な経過観察、いわゆる情報の収集と診断能力である。
 医療機器の開発によって生体に関する情報収集手段も拡大し、周産期医療においては超音波断層装置と分娩監視装置(Cardiotocograph:CTG)が用いられる。現在は臨床に広く普及し、母児の健康診断に欠かすことができないものになってきている。
 特にCTGは胎児心拍数と陣痛の継続的な観察機能をもつことから、異常を早期に発見することができるが、これは助産師の経過観察にかわるものではなく、経過観察に必要な媒体であるという認識が必要である。

以上のように分娩監視装置に関しては、容易に異常に移行しやすい分娩という時期に助産師の異常の早期発見のためには不可欠な超音波診断機器であることが書かれています。


超音波断層装置(超音波画像診断機器)に関しては、次のように書かれています。

(5) 医療機器(ME)


 母児の健康診断には問診、視診、触診、計測などの方法があり、現在でも基本的かつ重要な手法である。それに加え、血液・尿などの生化学検査、さらにME機器(超音波断層装置、CTG)によって得られる生体の情報は、今の医療になくてはならないものである。
 さらに加えられるならば超音波断層診断法は、妊娠4〜5週にみられる胎嚢(GS)による早期の妊娠診断、胎児の形態計測、動態観察など、胎児の発育上のアセスメントが可能である。しかも操作が簡単であり、画像の読影が容易である点で、有力な媒体である。特に妊娠中期には、子宮内胎児発育遅延(IUGR)などの発育異常も早期発見し、生理機能の成熟度からの腎臓所見などで正常からの逸脱を早期に発見できる。同様に、CTGも助産師の専門的観察の補助的手段として、異常の早期発見を容易にする。ノンストレステストNST)は、胎児の予備能力の判定に重要である。

 したがって、ME機器の使用に関しても、業務に当然付随する行為と位置づけることができる。
超音波診断装置、CTGなどは、妊産婦の健康診断の情報として一般化しているので、必要に応じて用いることがむしろ、注意義務ともいえる。さらに、所見、データーの判読を誤ればいうまでもなく誤読である。

超音波画像診断機器と分娩監視装置はたしかに「異常の早期発見」の手段ではありますが、助産師の業務としてそれらは同列に扱えるものでなのでしょうか?


助産師が何か異常を感じた時に、超音波画像診断機器で情報を得ようとする判断は本当に「注意義務」になるのでしょうか?


いずれにしても、2008年ごろには「助産師業務要覧」では超音波画像診断機器は「助産業務に当然付随する行為」という解釈と認識を示しています。


次回は、2012年に出版された「新版 助産師業務要覧 第2版」ではどのような解釈がされているかみてみようと思います。