災害時の分娩施設での対応を考える 21 <吹雪と出産>

先週の北海道や東北地方の大雪のニュースで、吹雪は予測するのが難しく、その予測方法の開発に防災科学技術研究所が取り組んいることを伝えていました。
先日の伊勢湾台風の記事を書く時に知った研究所です。


小学生の頃過ごした山間部の地域では、積雪1mぐらいの年があった記憶があります。
年に何回か積雪するぐらいだったので、一週間もすると溶けていました。
それでも雪国で暮らすのは大変だと、今でも少し雪は苦手です。スキーは楽しかったですけれどね。


助産師になってからは、また違った思いで毎年大雪や吹雪のニュースを聞いています。
「雪国のお産はどうしているのだろう。大雪や吹雪で病院まで間に合わなかったりしないのだろうか」と。


陣痛が始まって急激に進行するお産も時にあり、ふだんでも止むなく救急車を依頼することもあるのですが、救急車が雪で立ち往生したニュースを聞くと頼みの綱も自然を前にはどうしようもないのだと重苦しい気持ちだけが残ります。


こちらの記事で離島から出産のために分娩施設のある地域へと移動を余儀なくされている方々を受け入れている助産所について紹介しましたが、雪の多い地域でも早めに分娩施設近くへと移動しているのでしょうか。


首都圏の分娩施設でも、台風やゲリラ豪雨のような時に「お産が始まりました」という連絡を受けるとかなり緊張します。
特に経産婦さんの進行は早いので、連絡をもらって30分以内ぐらいに到着しないと、「もしかして車の中で生まれてしまったのでは?」とドキドキします。
1時間ぐらいたって「タクシーがつかまらなくって・・・」とようやく来院された産婦さんの余裕の表情を見て、こちらが緊張から解放されて脱力することもしばしばあります。


雪国の分娩施設のスタッフの皆さんは冬の間、こんな緊張感を毎日感じていらっしゃるのでしょうか。


<全体像が明らかになっていない>


この雪国での分娩入院のタイミング、あるいは実際にヒヤリとしたことや問題になったことなどがずっと気になっているのですが、周産期関係の書籍でそれについての報告やまとまった資料を見たことがありません。


時々、雪国出身の産婦さんに「雪国ではどうしているの?」と尋ねてみるのですが、ご本人が大変な経験をされたわけではないので、案外、ご存知ないようです。


雪に限らず、水害や噴火、そして地震などの災害のニュースのたびに、「この避難されている方々の中に妊婦さんはいるのだろうか。被災中に出産になった方はどうしていらっしゃるのだろう」と気になっています。


そういうデーターを、周産期関係者でもほとんど知らないのではないかと思います。


この「災害時の分娩施設での対応を考える」は、こちらで紹介した東日本大震災をきっかけに看護協会が作ったマニュアルについて考えたことから書き始めました。


悪天候や地理的な不便さも含む、日本の出産事情についてまだまだ全体像さえ明らかになっていないと思います。


周産期関係者がこの20〜30年の間に地道にこうした出産事情の事実をまとめていたら、自然の前に人間の出産はいかに非力であるかを理解できていたことでしょう。
そうすれば「自然なお産」という虚像に流されることに、もう少しブレーキをかけられたのではないかと思います。




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