帝王切開で生まれる 10 <帝王切開で生まれた新生児の経過の特殊性は観察されていないのではないか>

だいぶ間が空きましたが、「帝王切開で生まれる」では帝王切開で生まれた新生児の特殊性について主に腸内細菌叢の変化から考えてみました。


ブログを始めてから3年半ほどが過ぎましたが、「母乳とミルク」で悩むお母さんからのコメントを多くいただきました。
その中でも、帝王切開で出産された方々が、経膣分娩の方と同じ方法で「授乳指導」されていることへの悲鳴のようなコメントもあります。


「完全母乳という言葉について考える 18 <ミルクを足すことへのとまどい>」には、そんなお母さんたちのコメントがいくつかあります。


たとえば 703さんのくださったコメントです。

一人目の時は、産婦人科でミルクをあげられていました。というのも陣痛後の緊急帝王切開で私自身の回復が遅れ、満足に授乳することができなかったためです。そのため退院後も抵抗なくミルクを与えられたのですが、2人目の病院は母乳以外与えられず、ミルクをあげてと頼んだら誓約書みたいなものを書かされました。とにかく吸わせなさいと言われ、今回も帝王切開だったのでお腹の痛みをこらえながら授乳、明らかに足りなさそうでも吸わせれば出るを信じて一日中休むこともなく吸わせました。でも体重は全く増えず、おしっこの回数は少ない。それでも母乳・・・。結局2週間目にミルクを与えました。するとおしっこの回数も増え、一日中泣くこともなくなりました。

ミルクを足すのに誓約書と聞いて驚いたのですが、お二人目は東南アジアでのご出産だったそうです。ミルクを病院で補足するのにもそこまで制限が始まったことに、調整乳反対運動と対になった母乳推進運動の広がりを感じました。


さて、その病院の指導どおりに母乳だけで頑張ったけれど2週間目からミルクを足した703さんですが、1か月健診では体重が増えていなくてミルクの品質のせいにされてしまったようです。


カンタレッリさんのコメントは、さらに精神的に追いつめられた頃の様子が書かれています。

産院が「すべての母親は完全母乳を目指すべき」と言わんばかりに熱心なところでした。通っているうちに、普通分娩して完全母乳で育てるのが当たり前と思うようになり、それに向けて私なりに一生懸命努力していました。ですが、実際は3日間誘発剤の後、結局私が衰弱してしまい分娩停止で緊急帝王切開に。
経膣分娩できなかったショックから立ち直る暇もなく母子同室が始まり、また母乳は少ないからか、赤ちゃんは泣き叫んで一日数時間しか眠らず、助産師さんに「ミルクを足したい」と助けを求めても「赤ちゃんのためにもう少し頑張って!」と毎日2時3時すぎまで授乳しつづけなければミルクをもらえませんでした。長過ぎた陣痛で体はボロボロで、さらには医師から安定剤を処方されるくらい精神的にも疲れ果ててしまいました。


入院中だけでなく退院後も、疲労感とともに母乳とミルクの葛藤が続くことがかわっちさんのコメントからもわかります。


こころさん帝王切開後の授乳指導で追いつめられた様子を教えてくださいました。


こういうコメントを読むたびに、帝王切開で生まれた新生児の特殊性や生後の変化についてほとんど明らかにもされていないのに、なんだか「やみくもな授乳指導」をおこなっているのではないかと思わざるを得ません。


そんなことを、こころさんあての返信に書きました。

周産期医療・看護の中で「帝王切開後の新生児の経過の特殊性」が十分に観察されていないことにあるのではないかと感じていました。帝王切開の赤ちゃんは、比較的、体重増加期に入るのがゆっくりで、浅くくちゅくちゅ吸ったり、あるいは積極的におっぱいを吸わず「乳頭混乱」とひとくくりにされてしまいやすい印象にあります。そして生理的黄疸がやや強めに続いている赤ちゃんと同様に生後2〜3週間を境に、ぐんぐんと深い吸い方が増えて急激に体重増加期に入って行く場合が多いような印象があります。

そしてこういう経過の場合、一見母乳便でもあまりヨーグルトのような臭いもないのです。体重増加期に入る頃からうんちのにおいが甘酸っぱい臭いが強くなっていくような気がします。


これがちょうど、こちらの記事で紹介した「経膣分娩および帝王切開児の糞便中のBifidobacterium属の検出率」の変化に似ているなと感じます。


もしかすると、帝王切開で生まれた新生児は生後2〜3週間ぐらいかけて腸内細菌叢が経膣分娩の児と同じようになり、それに伴って体重増加期に入るのもゆっくりなのではないかという仮説をたてられるのではないかと。


そしてその間、ミルクを足して体重減少を少なくさせることで、その後は経膣分娩の新生児の成長に追いついて行くことができるといえるのではないかと。


もし、そのあたりがもう少しわかれば、帝王切開のお母さんたちにも手術直後から母乳だけで頑張らせたり、体重が増えないことが母乳のあげ方や飲ませ方のせいだと思い詰めさせることもなくなるかもしれませんね。


なによりも体重増加期に入る前のあまり飲まない新生児に、体重の増えばかりに注目して無理に飲ませることもしなくてすむことでしょう。



「ちょうどお母さんの体調が回復する2〜3週間目頃から赤ちゃんの飲み方も母乳の分泌も変わってくるから、それまではミルクをうまく使いながらのんびりでいいですよ」
そういえる根拠になるかもしれません。



帝王切開で生まれた新生児の変化についてはまだまだわかっていない。
その視点で、帝王切開術後のケアについて考えてみようと思います。