カンガルーケアを考える 7 <カンガルーケアを薦める医師の意見>

<カンガルーケアを薦める意見>


前回は助産師の一意見を参考に取り上げました。今日は医師の意見を見てみたいと思います。


2. 「産直後のカンガルーケアの是非」m3.com



「産直後のカンガルーケアの是非」


m3.comという医療関係者のサイトの記事で、2011年6月20日の記事の京都医療センター小児科医長、黒須秀雄氏のインタビュー部分を抜粋します。

「カンガルーケアそのものが悪いのではないだろう。出生直後は不安定で、一見正常に見える赤ちゃんでも急変することがある。赤ちゃんを十分観察できるような環境で行うことが大切。」
ヒヤリハット事例に対し、「事故が起きていることは不幸なことで、当事者になられたご両親や医療者のお気持ちを察するとつらい。ただし、そもそも出生後のリスクが存在する時期であり、急変とカンガルーケアを短絡的に結びつけるのは問題があると思う。事故の事例があったからと言って、カンガルーケアのリスクを必要以上に強調し、母親たちをむやみに不安定にさせるべきではなく、それよりも安全面に十分考慮しながらカンガルーケアを進め、母子愛着形成と母乳育児確立を目指すべきだろう。」

この記事では、「京都医療センターは年間600人ほどの出産のうち、リスクが少なくスタッフが十分観察できると判断した100人強に対して、カンガルーケアを実施している。」と紹介されています。
周産期センターですから「正期産児のカンガルケアー」に該当しないハイリスクの赤ちゃんも多いと思いますが、それでも6分の1ほどの赤ちゃんに対してしかカンガルーケアが実施されていないということです。


出生直後の不安定な状況にカンガルーケアをしてもリスクの増強因子にならないとすれば、もう少し実施率が高くても良いのではないかと考えます。
残り500人のお母さんたちは、母子愛着形成や母乳育児確立に大きな支障があったのでしょうか?
「母子愛着形成と母乳育児確立を目指すべき」ために実施する効果は不明であり、やはり実施するにはかなり慎重にならざるを得ない状況と理解するほうが自然な解釈と思います。


それにしても、「当事者になられたご両親や医療者」。当事者はなによりも赤ちゃんだと、私は思います。


3.「vol.91 カンガルーケアって危ないの?」 チビタス  2010年4月4日
http://allabout.co.jp/gm/gc/188783


ガイドライン作成に携わった倉敷中央病院の小児科部長渡部晋一氏のインタビュー記事がありました。

私にとってカンガルーケアは、科学的な裏づけもある確かなもの。だから私の病院では今でも以前と変らず皆さんにカンガルーケアをすすめています。」


この倉敷中央病院は周産期センターで、近隣からもカンガルーケア中に急変した赤ちゃんを3回受け入れていたことがあるそうです。それらの例は「危ない赤ちゃんもカンガルーケアをしていた」「分娩室にはお母さんと赤ちゃんしかいなかった」状況であり、

「急変の原因がカンガルーケアかどうか、それはわかりません。でも、カンガルーケアの時期が不安定な時期に重なる以上、どんなことに注意して行うべきかは改めて検討する必要がある。」「元気な生まれた赤ちゃんでもその後のことはわからない。」

とインタビューに答えています。確かにその場にいなければ、原因の推測も断定もできません。
渡部医師は、分娩直後のお母さんと赤ちゃんから目を離さないように警告をされているとのことでした。


ところで、そのチビタスの記事にはフランスの調査報告が紹介されています。

最近フランスでは、62,968人の新生児を対象に、生後2時間以内のALTE(赤ちゃんが亡くなりはしないものの急に蘇生を必要とする状態になること)とSIDS乳幼児突然死症候群)の発生を調べた。
SIDSを起こした赤ちゃんは0名、ALTEを起こした赤ちゃんは2名。その2名が共にカンガルーケアの最中に急変し、初産婦さんで、分娩室に母子だけでおかれていたのでこれらが危険因子でないかと考える人もいます。

と、インタビューアーの河合蘭氏は書いています。
原典がどのような背景を持つ調査報告か、また調査の精度、信憑性はどうかも情報がないのでわからないのですが、素直に読めば、「約6万人の生まれたばかりの赤ちゃんのうち、急変したのはカンガルーケアをしていた2名の赤ちゃんのみだった」ということではないかと思います。


どちらの医師も、また河合蘭氏も「安全策を強化すれば、カンガルーケアはしなかった場合に比べても危険性が高くなるわけではない」という考え方ということでしょうか。


次回は、科学的根拠とはなにか、安全策とはなにか考えてみようと思います。



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