「自宅出産の悲劇で母親死亡」オーストラリア

うさぎ林檎さんのtwitter経由で知りました。
食品安全情報blog 2012−1−31の記事です。
http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20120131#p7


A sporkeswoman for Midwives in Private Practices said it was the first time she has heard of a maternal death following a home birth in her 15 years' experiences working as a midwife.
"It very very rare and it's just impossible to imagine what might happened," she said.
開業助産師の報道担当者は、彼女自身の15年間の助産師活動の中で、自宅分娩での母体死亡を初めて聞いたと話した。「そのようなことが起きるなんて想像もつかないほど、本当に本当にまれなことなのです」と。


私の勤務先の産科の先生は、「10年やってわからなかった怖さを20年やって知るのがお産」とおっしゃっています。
産科医は異常な経過を全責任を持って対応します。異常分娩や分娩時の死については助産師の比較にならないほど、知識や経験を持っています。その先生方にして、お産には「まだまだ自分の体験していない怖さ」があるということです。



幸いにして、私はまだ出産時のお母さんの死亡には遭遇していません。
でも22年目の時に、その怖さを実感することがありました。
難産でしたが無事に出産を終えたお母さんの顔色が次第に悪くなっていきました。なんらかの出血によるプレショックと思われたので、医師がすぐに診察して出血原因を調べたのですが外出血はそれほど多くなく、でもお母さんの状態は次第に悪くなっていくのです。すぐに母体搬送の手配をして周産期センターへお願いすることになりました。
搬送後の診断では、後膣円蓋の裂傷で腹腔内に3000ml近い内出血があったということです。搬送後すぐに輸血をしてから開腹手術、その日の夜は「今夜が山です」と周産期センターから連絡がありました。
残された赤ちゃんを抱きしめて、「お母さん、絶対に大丈夫だからね」と泣きました。
センターからの次の情報が入るまで生きたここちのしなかったあの日のこと、思い返すたびに胃がしめつけられます。


お産の時の出血でお母さんがなくなり助産師の仕事をやめた知人もいます。
産科医療が進んで、お母さんや赤ちゃんの死に遭遇するスタッフも格段に少なくなりました。
「自分にはそんなことは起きない」と無意識に思っているのだと思います。
あるいは、死に遭遇することを恐れていては仕事自体が怖くなってしまうことでしょう。
分娩中の母体死亡や胎児・新生児死亡に遭遇した人は、おそらくまず自分を責めることでしょう。だからそのことには寡黙になります。
私が体験を書けるのは、お母さんが無事だったからとも言えます。
私にも、まだ書けないこともあります。語れないこともあります。


目の前のお母さんや赤ちゃんの死と遭遇して、「それは運命だった」と受け止められるほどの信念も持てません。


「そんなことが起きるなんて想像もつかないほど、本当に本当にまれなことなのです」
本当にまれなことだからこそ、一生に一度あたるかあたらないかの確率の事態にも備えること。
それは人の経験から学ぶしかないことなのです。


だから、私は助産師だけで分娩介助することは怖くてとてもできないです。
「自律してない助産師」とか言われてもしません。
もし助産師しかいないところで分娩に遭遇したら、その時は自分の全力を尽くします。



ななのつぶやき
「医療者の視点から見た分娩時出血多量の1例」
http://blog.m3.com/nana/20060831/1
数年前、これから産科医療はどうなってしまうのだろうと心配していた時に出会った産科医なな先生のブログです。
産科医といつも一緒に働いてきたのに、先生たちのことを理解していなかったと大いに反省させられました。
是非、すべてのエントリーをお勧めします。


<本の宣伝>
リンク先の畝山智香子氏の本です。
「『安全な食べもの』ってなんだろう?」 −放射線と食品のリスクを考えるー
日本評論社 発効日 2011年10月30日
ISBN978-4-535-58604-8