新生児にとって「吸う」とはどういうことか 3  <押し出し反射>


前回の「吸啜」と「哺乳」に書いたように、新生児は舌をUの字にして母親の乳首や哺乳瓶の乳首、あるいは口に突っ込まれた指も巻き込んで吸おうとします。
その力は、「巻き込まれていく」「絡めとられていく」という強さで、イメージとしては蛸の足で獲物を捕らえて離さない・・・という感じです。


新生児の舌がUの字のなっていることを読んで、おもわず鏡で自分の口を見たかたはいらっしゃるでしょうか?
そう、大人でもUの字になります。さらに舌の先端をくるっと丸めることもできますよね。
でも大人になったら、おちゃらけた表情をする時以外には使いようのない動きです。
新生児の哺乳のための動きのなごりなのでしょうか。


<哺乳のための「押し出し反射」>
新生児には、口で捕らえようとする「追いかけ反射」と舌で巻きこむ「吸啜(キュウテツ)反射」が哺乳に関する原始反射で大切なものであることは前回書きました。
もうひとつ、学生時代に「押し出し反射」という反射を習った記憶があります。手持ちの新生児や小児の医学関係の書籍で探してみたのですが、見当たりません。


母乳でもミルクでも授乳の途中で赤ちゃんが舌で乳首を出そうとする動きが、押し出し反射です。あるいは、授乳しようと思っても何度も何度も押し出されて、口はあけているのになかなか授乳させてもらえないのをほとんどのお母さんが経験されていると思います。(哺乳瓶で授乳しようとしたお父さんも)


どうもこれは「今はいらないよ」という時に、自らやめるための反射のようです。


出生当日は目が覚めてもしばらく大泣きで乳首を近づけてもくわえようとしなかった新生児が、生後1日になるとぐずりながらも少しくわえ始めようとします。
乳首を浅めに巻き込んでくちゅくちゅとしてしばらくするとペッと吐き出して泣いて、という行動をよくします。


そのうちに少し大きな口の動かし方で母乳やミルクを吸って、そのあとしばらくはくちゅくちゅと浅く吸う動きのあと、グイーンという感じで乳首を口から押し出そうとします。すぐに眠るわけではなく、夕方から夜中の活発な時間帯はこうした「授乳」が30分から1〜2時間ごとに繰り返されることがあります。


この押し出し反射で「いらないよ」というのは、満腹していらないというよりも「今は、それ(乳首)はいらないよ。また後でね」という表現ではないかと思っています。


この押し出し反射は、分娩直後に授乳を試みるときから見られます。
乳首を口で探し当てた新生児はそのまますぐに吸い付いているようでも、その前にいくつかの行動をしています。
唇あたりで少し感触を確認してから、そっとくわえます。
いきなりは深く舌で巻き込まずに浅く巻き込んだあと何か考えるようなしぐさをしてから、一度ペッと口から出します。
多くの赤ちゃんがいかにも「吐き捨てる」ように口から乳首を出すので、お母さんたちにしたら「まずいのか」「嫌なのか」とショックです。


でも大丈夫。そのあと、おもむろにもう一度自ら探し当てて深く巻き込んで吸い始めます。中にはそのまま「乳首を確認したから、もういいです」と、抱っこだけで満足の新生児もいますが。


この押し出し反射は、新生児にとっては「これは吸って安全なものなのか」と口で確認する大事なプロセスなのかもしれません。
もしかすると味覚によって毒見をしているかもしれません。
こうした行動が生まれた直後からあることが、とっても不思議です。


学生時代の授業ではこうした「原始反射」の授業はつまらなくて、ただの知識、しかも試験のためのたいくつな知識にすぎませんでした。
でもこうして新生児の動きをじっくりと観察していると、「反射」という一言では表しつくせない新生児の「生きるための力」なのですね。


新生児の「吸うこと」、まだまだ続きます。


*エントリーに<水の中>のタグがついているように、個人的体験に基づくエビデンスレベルの低い内容です。くれぐれも信じ込まないように。




新生児の「吸う」ことや「哺乳瓶」に関する記事のまとめはこちら