新生児にとって「吸う」ということはどういうことか 4 <口でくわえる>

まだまだ競泳について書き続けたい気持ちをぐっとこらえ、新生児の吸うことについての続きです。


<新生児はなぜ、どのようにして口で物をくわえられるのか>


胎児は子宮内では臍帯の臍帯血を通してお母さんから栄養をもらい、代謝したあとの老廃物をお母さんに処理してもらっています。
生まれたら、自分で食糧を得て自分で代謝することになります。


状態が安定している新生児は生まれた直後から、こぶしや口に触れた物をくわえようとしたり、口をパクパクさせて何かをアピールしようとします。
「吸啜」と「哺乳」で書いたように、追いかけ反射や吸啜(きゅうてつ)反射という原始反射があることで、自分で食糧を得るための行動が保障されているということでしょう。


最近は分娩直後にすぐにおっぱいを吸わせることが当たり前に行われるようになったので、生まれたばかりの赤ちゃんがすぐにお母さんの乳首を吸い始めることに感動させられたお母さん、お父さんがたくさんいらっしゃることでしょう。


なぜ、どうして、赤ちゃんは「それはくわえても大丈夫だ」と認識できるのか、不思議でしかたがありません。
初めて何か(お母さんの乳首だけでなく、哺乳瓶の場合でも)をくわえる様子を見ていると、反射というだけではないもっと複雑な認識のプロセスがあり、また自分の意思というものも新生児なりにあるように見えます。


今回はそんなところで思いついたことを書いてみたいと思います。


<口でくわえるための認識はどのようにしているのか>


出生直後の新生児は、たいがいの赤ちゃんがかなりはっきりと目を開けています。
分娩直後に初めてのおっぱいを吸わせる時にも、目をしっかり開いて吸っていることが多いです。
ところが、その後の授乳になるとどちらかというとほとんど目をあけずにパクッとお母さんの乳首をめがけてくわえつくのです。


それに対して哺乳瓶での授乳だと、出生後しばらくの間、新生児はは必ずといってよいほど大きく目を見開いてミルクを飲みます。
大人にすると、「哺乳瓶だと目をキラキラさせておいしそうに飲むのに、おっぱいだと目を閉じてすぐに眠ってしまう」、「おっぱいはおいしくないのか。疲れるのか」とがっかりさせらるようです。


出生直後にほとんどの新生児が目を開けていますが、その中でも「見開いている」というほどの開け方の新生児は「新生児仮死」に近い状態で、呼吸などがまだ安定していない赤ちゃんで注意が必要ということを新生児に関わる医療従事者であれば体験的に感じているのではないかと思います。


新生児にとって目を開けているという状態は、単に物を見るということよりは「危険かどうか確認する」という行動かもしれません。


新生児の視力について、どのようなことがわかっているのでしょうか。


新生児の視力について手元の「小児科学・新生児学テキスト全面改訂第3版」(診断と治療社)には、以下のように書かれています。

新生児期には、明るい光を注視したり追視したりすること、レチノグラムによる網膜の反応性により視覚のあることは証明されているが、認知能力としての視力は不明である。

「小児科診療 新生児・乳幼児健診で遭遇する問題点と対応」(診断と治療社)では視力の発達について、以下のように書かれています。

正常の視力は新生児期から発達し始めるが、新生児期の屈折はおおむね遠視であり、1歳までに急速に進行し、その後もゆっくり進行して2歳頃に完成する。対光反射、瞬目反射は新生児期から観察される。固視(目標を注視してみること)は新生児でも短時間の固視が可能であり、追視(眼で目標を追う運動)が見られるのは、生後2〜3ヶ月である。
(中略)
乳児の視力は目安として、新生児で0.02〜0.05、生後6ヶ月で0.04、1歳で0.1、2歳で0.3、3歳で1.0ということである。


新生児だとぼんやりとした明るさの中に黒いものがある、という認識ではないかと思います。
妊娠中に母親の乳首と乳輪の色が濃くなるのは、新生児が認識しやすくなるためかもしれません。
おそらく最初に眼を開けて乳首を吸うのは、その視力を使っての確認作業なのではないかと勝手に推測しています。
そして一度確認作業が済めば、次からの授乳では眼を閉じていても感触などでわかるか、眼を閉じているようでも新生児は薄目を開けているような時があるので濃い色を確認してパクッとくいつけるのかもしれません。


哺乳瓶での授乳では、なぜ目をしっかり開けているのか。
たぶん、白っぽい色なので「見えないものに対する警戒感」があるのではないでしょうか。
哺乳瓶の乳首が近づいてきても見えなくてわからない。赤ちゃんの口を開けさせるために通常、哺乳瓶の乳首で唇をちょんちょんとつっつきます。
反射でパクッとくわえてしまい、哺乳瓶自体の重みと、大人の力で哺乳瓶を固定されるとそのまま反射でグビグビと飲み始めてしまうため、新生児にしたらちょっと危険、という感じで目を開けて確認しているのではないかと思えるのです。


でも新生児も一回一回の授乳で体験・学習していくので、そのうち哺乳瓶も決して危険ではないと認識するのか、目を閉じながら飲むことも増えていくようです。


私自身は先天的に視力障害のある赤ちゃんにはお会いした機会がないので、生まれつき視力のない赤ちゃんはどのような行動をとるのだろう、そんな疑問から考えたことを次に書いてみたいと思います。




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