新生児にとって「吸う」ということはどういうことか 8 <「飲む」だけではなく「待つ」ための吸い方もあるのではないか>

母乳の直接授乳だけでなく、哺乳瓶でもくちゅくちゅと少しだけ吸って待つような行動があることを前回までの「新生児が哺乳瓶で『飲む』行動に伴うリスクとは何か」で書きました。


この「くちゅくちゅと待っている」哺乳行動について、どれだけのことが明らかにされているでしょうか。


こちらの記事で、日本ラクテーション・コンサルタント協会の「母乳育児支援スタンダード」に書かれている「栄養的吸啜と非栄養的吸啜」という考え方を紹介しました。再掲します。

乳児の吸啜には2つの型がある。栄養的吸啜は乳汁移行を伴い、非栄養的吸啜は乳汁移行を伴わない。非栄養的吸啜は、乳児が睡眠中に見られるような自発的吸啜と、乳汁を与えずおしゃぶりや指を口に入れることで起こる吸啜とがある。低出生体重児では、非栄養的吸啜は消化液の分泌や蠕動を促進し、情緒を安定させる効果があるといわれている。(p.125)

乳汁を吸っているかどうかという点からは上記のように分類できるかもしれません。
ただし、「乳汁を吸っていない」哺乳行動の状態を「不適切な吸着」ととらえられるかというと、それは違うのではないかと思います。
上記の本の「不適切なラッチ・オンのサイン、原因とそれがもたらす結果(p.183)」から引用してみます。

表23−5 不適切なラッチ・オンのサイン
・口を開けなかったり、おちょぼ口をする
・唇を巻き込んでいる
・舌の先が見えない
・頬がピンと張っている、またはくぼみがある
・早い吸啜しかしない
・舌打ちするような、舌を鳴らすような音が聞こえる
・授乳終了直後の乳頭が、平らになったりすじができていたりする
・授乳中や授乳後に痛みを感じる
・乳房から母乳が十分に飲みとられず、乳房が張りすぎることがある

表23−6 不適切な吸着の原因
・人工乳首を使用
・母親が母乳育児に慣れていない
・前回母乳育児が困難だった経験を持つ母親
・児が小さいかもしくは病気
・強度の乳房緊満
・授乳開始の遅れ
・援助者の支援するスキル不足


新生児が口をすぼめてくちゅくちゅしている行動は「不適切な吸着」として問題で、何か対応策が必要なのでしょうか?


たしかに浅い吸い方が長く続くと、乳頭に傷ができやすくなります。
けれども、浅いくちゅくちゅした吸い方の時に、深くくわえさせようとしても赤ちゃんは自ら乳首を押し出そうとしたりあるいは体勢を変えて深く吸わないようにします。

doramaoさんのとらねこ日誌の「母乳育児に完全は必要なのか」に、「強欲でいこう」というブログの「母乳育児の検証3(個人的経験)」が紹介されています。その中の助産師が1ヶ月健診で赤ちゃんの吸い方を特訓する様子が書かれている部分を引用します。

その後の授乳指導で、子どもの吸い方が悪いから『特訓』しましょう、と言われて、私は仰向けになった状態で、子どもは口に助産師さんの指を突っ込まれて、正しい吸い方をしているかチェックされた後、その助産師さんに唇を開かされた状態で授乳、ヒルの嘴のようになっていなければ、また離されてやり直し、子どもは泣き叫ぶ、助産師さんはそれでも、「これで吸えるようになればそれがこの子のために一番いいのよ!」とまさに、涙の特訓が


そのコメント欄にも書きましたが、赤ちゃんは授乳時に「大きく唇を開いてアヒルのような口」になっているものという話をいろいろなところで見聞きします。ピジョン社の「母乳相談室」という哺乳瓶もそのために広口びんになっているようです。
上記のような「特訓」までしないにしても、「おっぱいを吸う時に赤ちゃんはアヒルのような大きな口になるんですよ」ぐらいの説明をしている助産師はけっこういるのではないかと思います。


たしかに、ぐびぐびと母乳を湧き上がらせる飲み方をしているときは大きく唇を開いて乳輪全体を口でとらえています。
母乳だけでなく、ミルクを飲むときにもぐんぐんと飲むときには人工乳首全体を口でとらえます。
そういう飲み方の時は、舌を下口唇から出して大きく乳首をとらえるような動かし方をするので、飲んでいる時に舌が外からも見えます。


でも、浅くくちゅくちゅしている時には、口をすぼめて乳首を深く巻き込まないようにしています。
そういう時には新生児の舌も舌口唇の内側にあって外からは見えないですし、頬にもえくぼができるような口の動かし方をしています。
上記の「桶谷式直接授乳訓練用母乳相談室」の哺乳瓶を使用しても、哺乳瓶を押さえつけなければ、同じように浅くくちゅくちゅします。


つまり「新生児あるいは乳児の哺乳行動にはその2つの口の動かし方がある」ということであって、なにか問題であったり矯正や訓練が必要な異常ではないのではないでしょうか?新生児にしたらそのような哺乳行動も必然性があるということだと、私は思うのです。


新生児や乳児にとって「正常なこと」を「異常」と誤まって認識されやすいほど、いまだに新生児が十分に観察されていないということだと思います。
不十分な観察から間違った仮説が不十分な検証のままに広がり、日々新生児に接している助産師の間にすぐに受け入れられてしまう。
その過去の過ちのひとつとして、kikulogに2009年9月10日の「舌癒着症」というのエントリーがあります。
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=1252511690


同様に「不適切なラッチ・オン」という表現もまだまだ検証が必要だと、私は考えています。




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