新生児の哺乳行動とは 3 <羊水のトリビア>

皆さん、人生最初のうんちを覚えていますか?
子宮の中にいる時から、少しずつ少しずつ蓄えてきます。
ブログのタイトルにも入れたようにヒトは水の中で育ち、生まれてからの飲むことも排泄も、子宮胎内の羊水の中で準備が始まっています。


分娩時には赤ちゃんが娩出すると同時に子宮内に残っていた羊水がドーッと出るので、駆け出しの頃は分娩介助時にびしょぬれになっていました。
産科で働いていると日々なじみの深い羊水ですが、案外勉強不足であることに気づきました。
そこで今日は、人生最初のうんち「胎便」の原料である羊水についてのお勉強ノートです。


参考文献は、「周産期医学必修知識」−周産期医学 2011 Vol.41 増刊号ー
(東京医学社)。


羊水とは何か、何のためにあるのでしょうか。
「羊水の概念」

羊水は胎児付属物(胎盤、卵膜、臍帯、羊水)の一つで羊膜腔を満たす液体であり、その液体は母体、胎児、胎盤間で絶えず還流し、子宮内胎児の発育に適した生活環境を調整し、妊娠中の胎児の発育・運動の自由を確保している。

妊娠中は一定の温度と圧力を保ち、胎児の体温を一定に保ちつつ、また、外力による胎児への損傷の危険性を減少するとともに母体への直接的衝撃を和らげている。
分娩時においては子宮の収縮力を均等に配分し、臍帯や胎児への直接的な圧迫を守ることで、胎児を保護している。また、羊水は胎児の各器官の発育、発達を促すという重要な役割を担っている。


私が助産師学生の時に、医学部で人工子宮を研究していて見学をさせてもらった記憶があります。
山羊か羊の胎児が水槽の中で育てられていました。
それから四半世紀たった現在も、人工子宮の実用化の話は聞きません。もし実現していたら、早産でうまれた赤ちゃん達は子宮環境に近づけた水槽の中で36週ごろまで育てらることになり、NICUは様変わりしていたことでしょう。
羊水の成分に近い液体を開発して、保温し、透析機のような機械で循環させてたとしても、それは子宮内とは似て非なるものということなのでしょうか。


羊水はどのように作られ、どこへいくのでしょうか。
「羊水の動態」

胎児の羊水の嚥下に関してはさまざまな実験で研究されている。肺胞液も妊娠末期には平均160〜200ml/日程度が排出されるといわれている。一方で、羊水の吸収経路は胎児の羊水嚥下機構であり、20週頃には20〜50ml/日であるが、28週頃には200ml/日となり、その後はさらに増加し10ヶ月には約500ml/日程度に達するようになる。胎児胃腸系から羊水内容液が吸収されること、胎盤膜を通じて母体循環へ移行すること等が確認されている。羊水は2.9時間に1回、完全に交換されることが重水と放射線ナトリウムを標識とした実験で確認されている(Vosburgh, 1948)。Seed(1980)は妊娠末期の羊水は胎児の多数の通路で交通し、母体との間で一定に羊水の産生、および吸収が羊水循環調節機構により調節されることを確認した。


胎児はただ羊水に保護されているだけではなく、羊水を循環させながら全身が発育、発達していくその緻密さ精密さは本当に驚きです。
それにしても「2.9時間に一回、羊水は完全に交換される」ことは、初めて知りました。1948年にはすでに検証されていたことも、すごいですね。


この羊水を少しずつ嚥下しながら、胎便をためてくる。
次回はその胎便について、書きたいと思います。