助産師教育ニュースレター 6 <どのような助産師を育てたいのか>

前記事までで、全国助産師教育協議会が目指す「世界」とは、医師のいないところで妊娠・出産を管理し、処方や処置まで業務拡大が認められている助産師の活動の場であると理解しました。


ところで、私自身、日本の助産師の方向性というものがどこでどのような人たちによって決定し進められているのか、いまひとつよくわかりません。
看護職の中で、助産師だけが日本看護協会助産師部会だけでなく、日本助産師会という二つの職能団体を有しています。ところが今まで臨床で働いていて判断に困るような方向性に対しての明確な対応はほとんどといってよいほど、これらの団体からは示されたことはありませんでした。


たとえば看護師の内診は保助看法に違反するという法的解釈が厚労省医政局看護課から出された反面、すでに助産師がエコー検査を取り入れている助産所や病院もありましたし、助産院では縫合術や促進剤の使用も一部行われているのにその法的解釈はどうなのか明確にしてくれる助産師の団体はありません。


助産師が関連したホメオパシーの事件の後も、助産師が代替療法を取り入れることに関する問題点や社会的責任を明確にした団体もありませんでした。


気がついたらいつのまにか、助産師の会陰切開・裂傷縫合の議論が進んで学生の実習にまで取り入れられていました。「法的な整備はまだない」段階で助産師対象に縫合術の講習会まで開かれていることに対し、どのように法律を解釈したらよいのか明示してくれる団体もありません。


「臨時応急の手当て」として会陰切開・裂傷縫合は助産師に許されるという解釈のようですが、「臨時応急の手当て」を具体的に示してくれる団体もありません。


さらに、いつのまにか思春期や更年期の女性も助産師の仕事に含まれるという「助産師の声明」が日本助産師会から出され、更年期の女性への保健指導を取り入れている助産院もでてきました。
助産師の声明」より抜粋
http://www.midwife.or.jp/b_attendant/statement01.html

助産師は母子のみならず、女性の生涯における性と生殖に関わる相談や教育活動を通して家族や地域社会に広く貢献する。その活動は育児やウィメンズ・ヘルスケア活動(※2)を包含する。

※2には「思春期におけるケア、中高年におけるケア」が具体例として示されています。
通常、助産師は卒業時点で「受胎調節実施指導員」の資格も取得しているので、避妊に関する保健指導や一部の避妊に関する医薬品の販売もできます。ただし、この受胎調節実施指導員は助産師だけの業務独占ではなく、保健師・看護師・助産師であれば取得することができます。
日本での助産師の定義と業務は保健師助産師看護師法第3条に示されたものが基本であって、たとえICM(国際助産師連盟)が「助産師は、女性のためだけではなく、家族及び地域に対しても健康に関する相談と教育に重要な役割を持っている。この業務は、産前教育、親になる準備を含み、さらに女性の健康、性と生殖に関する健康、育児におよぶ」(2005年改訂)と定義しても、日本の国内では保助看法に規定されている業務のそれ以上でもそれ以下でもないのではないでしょうか。

助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。

更年期まで開業の中で扱っていることに対し、その法的根拠や相談料の正当性について説明してくれる団体もありません。


たとえ法的に認められても思春期や更年期にまで助産師の活動の場を広げれば、ただでさえ助産を担う助産師不足の状況はさらに悪化することでしょう。それに対しての見通しはきちんと立てられているのでしょうか?


また近年「自律した助産師」を目指すと盛んにいわれていますが、病院や診療所で働く助産師は「どのように自律していないのか」明確に教えてくれる団体もありません。
私自身は、十分に自律して周産期医療のために働いてきたとプライドをもっているのですが、なぜかどこからともなく「あなたたちはダメだ。本当の助産師ではない」と言われ続けていますが、それに反論する場もありません。



No.57 (2007.8.25)の、「社会のニーズに応えられる助産師教育を目指して」(平澤 美恵子氏、全国助産師教育協議会会長)という巻頭言に以下のように書かれています。

しかし、助産師は社会のニーズに応えられる実践能力を維持しているのでしょうか。開業助産師の大多数は、全責任を持って一貫した妊産褥期の管理、すなわち、安全性を第一義に妊産婦の主体性を尊重し、納得のいく助産・ケアを行いその支援は評価されております
施設内助産師も「助産師外来」や、「院内助産」の実践には、開業者と同等の実践能力と信念が必要です。臨床現場で助産師の主体性、判断力・安全な技術と実践力・管理能力が育まれてこそ行える「助産師外来」であり、「院内助産」であろうと想定します。


教育者は、どのような助産師を育てたいのでしょうか。


そして助産師の方向性を誰がどのように決めているのでしょうか。
「開業者と同等の実践能力と信念」を私たち勤務助産師が持てば、臨床の現場が抱えている問題は改善するのでしょうか?
改善するのであれば、教育者の団体からそのようなアドバイスが出てくることに感謝し参考にしたいと思います。


しかし「開業者と同等の実践能力と信念が必要です」という教育者のとらえかたは、現状を本当に認識できているのでしょうか?
そのあたりを、今後も突き詰めて考えていきたいと思います。




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