助産師の「開業権」とは何か 2  <開業権と開業届け>

<開業権=助産所開設なのか>


看護職の中で唯一独立開業できるということですが、開業権とはどのような定義か、開業とはどのような定義で具体的にどのような業務内容か、どのような法的根拠あるいは法的規制があるか、開業の業務内容を具体的に誰がどのように基準を設定するのか、など探しても明確にしてあるものがなかなかありません。


今日は法律や言葉の定義の内容が多いので、わかりにくかったり退屈な内容ですが、今後の助産師業務について記事を書くために頭の整理をしたいのでどうぞご容赦ください。



助産師業務を行う上で必要な法令とその解釈や、実際の業務内容についてまとめた「助産師業務要覧」を日本看護協会が出版しています。
1章ぐらい開業権についての説明があってもよさそうですが、「開業」あるいは「開業権」という言葉さえ目次にも記載されていません。


助産所の開設については、助産師業務要覧では以下のように書かれていて具体的な経営方法も書いてあります。
そこで初めて「開業」という表現が使われています。(p.175)

助産所の開業は「医療法」により保障されている。

助産所とは、「助産師が公衆又は特定多数人のための業務(病院又は診療所において行うものを除く)を行う場所をいう。(医療法第2条)

また、助産所の特例として、出張のみによってその業務に従事する助産師については、それぞれの住所をもって助産所とみなす。(同法第5条

つまり医療法に基づき、助産師が助産所を開設することが「開業」であり、その権利を「開業権」というという解釈でよいのでしょうか。
そして「助産所」というのは医療法に定義されている入院施設だけでなく、入院施設をもたない「出張」という形態があるということでしょうか。


助産所」について、日本看護協会出版会の「助産師基礎教育テキスト 第3巻 周産期における医療の質と安全」(2009年)では、「助産所における助産サービス管理の実際」の章の「1.助産師の開業と医療安全管理」の中に以下の説明があります。

a.助産師と開業
助産師は看護職の中で唯一独立開業し、助産業務を自立して実践できる職業である。助産所はその開業実践の場であり、医療法第2条に「助産師が公衆又は特定多数人のためその業務(病院又は診療所において行うものを除く)を行う場所をいう」と定められている。
助産所の開業の形態は、医療法に基づいて有床所助産所(9床以下)無床助産所に分類されている。
また助産所の特例として、出張のみによってその業務に従事する助産については、それぞれの住所をもって助産所とみなす(同法第5条)とされ、これも開業の一形態として認められている。


ここでは、助産所がさらに「有床」つまり入院施設をもつものと「無床」の助産所があるとしています。
そして、出張での開業の場合には「自宅の住所を助産所とみなす」わけですから、助産師の開業をまとめると以下のように解釈できます。

助産師の開業とは、医療法に基づいて開業届けを提出し助産所(有床、無床、出張)を開設することをいう。

ところが、助産所の開設者は助産師でなくても所定の届出をすれば可能です。ただし管理を行うのは助産師に限られています。
ということは、「助産師が助産所を開設すること=開業」ではあるけれど、「助産師の開業権=助産師が助産所を開設する権利」ということでもないようです。


助産婦学生時代から何度となく耳にした、助産師の「開業権」という言葉はもしかしたら正式には存在していない用語なのではないかと考えているのですが、どなたか詳しいかたがいらっしゃったら是非教えてください。



<開業届け=助産所の開設届けなのか>


有床であれば助産(分娩介助)を行うために入院施設を持つ助産所と理解していましたが、最近は分娩は扱わずに他院で出産した母子を産褥入院として受け入れる助産所もあるようです。


無床は助産を行わず保健指導などの助産師業務のみを行う助産所、つまり母乳相談などが該当すると考えられます。


出張というのは、助産所として届け出た助産師の自宅では助産や保健指導などの業務を行わず、対象の自宅に出向いて業務を行うことを指しているようです。


実際に助産所を開設する際には届出が必要です。助産師業務要覧では「助産所の開設届け」について説明がありますが、表現は「開設届け」で統一されており、「開業届け」という表現は一箇所もありません。
「開業届け」という表現も開業権と同じくよく耳にするのですが、正式な法律用語でもなくもっといわばラフな言葉なのでしょうか。
これも定義がいまひとつよくわからない言葉です。


その「助産所の開設届け」の説明は以下の通りです。(「助産師業務要覧」p.175)

助産所を開設したときは、開設後10日以内に、助産所の所在地の都道府県知事に次の事項を届けなければならない。(医療法第8条)
様式は法令によって定められてはいないので、わかりやすく書けばよい
1)開設者の住所および氏名 2)名称 3)開設の場所 4)助産師その他の従業員の定員 5)敷地の面積および平面図 6)建物の構造概要および平面図 7)開設者が現に助産所を開設もしくは管理し、または病院、診療所もしくは助産所に勤務する者であるときはその旨 8)同時に2つ以上の助産所を開設しようとする者であるときはその旨 9)開設の年月日 10)管理者の住所および氏名(免許の写しを添付) 11)業務に従事する助産師の氏名(免許の写しを添付)、勤務の日および勤務時間  12)嘱託医師の住所および氏名(嘱託医師となる旨の承諾書および免許の写し)


ただし、母乳相談のような場合には嘱託医は不要です。
ですから、分娩を取り扱わなければ比較的容易に助産所の開設届けを出すことができます。


12)の嘱託医師については分娩を取り扱う助産所の開設者に義務付けられていますが、自宅分娩を扱う出張助産師について助産師業務要覧では以下のように書かれています。

なお、出張のみの助産師については嘱託医設置の必要はない。(昭和23年12月27日医第427号)
この点に関しては「なお、出張のみによって業務に従事する範囲は厳格に解釈されるべきであり、自宅においての所謂診療行為をなす場合は、同法(*医療法)第2条の規定による助産所とみなされるべきである。」との回答がある。(昭和24年3月29日医収第113号)
助産師業務要覧 p.178)


つまり母乳相談のように保健指導を主とする助産所と自宅分娩を行う出張の助産所開設届けは嘱託医を設置する必要がないので、私が今すぐに「助産所開設届け」を提出することも可能ということになります。
あるいは助産師教育ニュースレター 2 助産師の業務拡大とは - ふぃっしゅ in the waterで紹介した助産師教育ニュースレターNo.58の助産師団体連絡協議会報告にあった「卒業と同時に開業できるライセンス」という認識があるほどに、助産所の開設=開業はそれほど難しいことではないということでしょうか。



<開業にあたっての助産師に対する教育>


簡単に開設届けを出せるといってもいくらなんでも新卒で母子の生命に直結する自宅分娩を開業しようとする人はいないでしょうし、母乳相談にしてもそれなりの実務経験がなければ開業することは現実にはありえないとは思います。


では実際に開業するまでの準備や教育はどのようになっているのでしょうか。
助産師基礎教育テキスト 第3巻 周産期における医療の質と安全」に「助産師の開業とその教育」という内容があります。(p.185)

a.助産師の開業とその教育
助産師は看護職の中で唯一開業が認められているが、開業にあたっての特別の教育制度が整っているとはいえない
。母性専門看護師の専門領域の一つに地域助産があり、これは地域での開業を目指すものだが、コースの修了者はでていない。
日本助産師会は、1995年度より「開業助産師教育長期研修という1年間の教育制度をスタートし、年間1〜3名程度の研修生を育成しているが、受講者の少なさに加え研修終了即開業が可能とはいえず、研修制度が十分成果をあげているとはいえない。
短期の研修会としては日本助産師会による2日間の「助産所開業セミナー」があり、毎年開催されている。
助産師の基礎教育にどのような教育・研修・実地研修を積めば、安全な開業を実践できるのか、今後早急に検討すべき課題といえる。

c.継続教育
地域で開業し安全な助産を展開するために必要な教育・研修や臨床経験についてはまだ明らかにされておらず、ほとんどが実地での教育(On the Job Training:OJT)に任されている。助産所管理者も助産所に雇用されている助産師も、自らの日常実践を振り返り、常に研鑽を積む姿勢が必要である。


現時点では、助産師の開業のための準備教育も継続教育も未整備であるということです。


次回は実際の開業数と具体的な業務内容について考えていきたいと思います。





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