助産師の「開業権」とは何か 4 <助産所数の推移と分娩以外の業務><追記あり>

助産所数の推移>


前回の記事で実際に分娩を取り扱っている助産所数を把握するのが難しいと書きましたが、分娩を取り扱っていない開業者数は「国民衛生の動向」で調べられるようです。


手元に国民衛生の動向を持っていないのですが、看護協会の「助産師業務要覧」と「助産師基礎教育テキスト3巻」に助産所数が掲載されています。


それによると、

2004年(平成16年)時点での届出による助産所数は、開設者722、出張(無床)によるもの727と報告されている(国民衛生の動向2007)。
助産師業務要覧 p.183)

助産所数は、2006年12月末現在、開設者683、出張によるもの586と報告されている。
助産師基礎教育テキスト第3巻 「周産期における医療の質と安全」p.173、統計の出典の記載はなし)


2004年と2006年の全助産所数を比較しても13%も減少しています。
その後2007年には医療法第19条改正、2009年には産科医療補償制度が始まり、分娩を取り扱う助産所への影響は大きいものがあったと思います。


2007年(平成19年)には、医療法第19条の改正で分娩を取り扱う助産所には産科医師の嘱託医と嘱託医療機関が義務付けられました。
それまでは医師であれば診療科目を問わずに嘱託医としてお願いできていたのですが、産科医師だけということになりました。
1950年頃から分娩が医療施設で行われるようになった時代にはまだまだ全国どの地域にも必ず産科医師がいたわけではないので、そのような時代背景を考えれば医師であれば科目を問わずに嘱託医にできるというのも仕方がないことでした。
その後日本の医療は急速に拡充して各科の専門医による診療体制が整備されていったわけですから、2007年まで助産所の嘱託医は産科医でなくても良かったこと自体が驚くほど時代錯誤という印象です。
開業助産師内部から「嘱託医は産科医にしましょう」という動きはなかったのでしょうか。


2009年に産科医療補償制度が開始して、分娩時の客観的データー(分娩監視装置による記録や臍帯血血ガス値)などがより重要になってきました。
「自然なお産」「医療介入のないお産」を理想とすれば、産科医療補償制度に加入するために分娩監視装置を使用することなどはかなり葛藤を伴う条件であったことは容易に想像できます。
産科医療補償制度のホームページの「加入施設」の助産所をみていくと、2009年当時加入してすでに現時点で「脱退」している施設がいくつかあります。
これは分娩自体を取りやめたのかそれとも産科医療補償制度には加入せずに分娩を取り扱っているのか、わかりません。
現時点では分娩のストレスだけではなくすでに子宮胎内で脳性まひが発症しているケースも明らかになっているのですから、適切な分娩時のデーターを残すことは分娩を取り扱う専門職としては当然の責任だと思います。


というわけで、2004年、2006年当時と比べても分娩を取り扱う助産所がその後さらに減少していること推測できますが、分娩を取り扱わない助産所は何を業務にしているのでしょうか。


<分娩を取り扱わない助産所の業務>


かれこれ7〜8年、開業助産所での業務内容に関心があって調べています。
特に助産師の中でホメオパシーが広がっているということを知って驚愕した2009年からは、助産所のホームページなどを定点観測しています。


これも案外まとまった情報を得る手段がありません。
日本助産師会の全国助産所一覧がありますが、全開業助産所を網羅しているわけではなさそうですし、「入院分娩」「出張分娩」「母乳相談」「自主サークル」の4つに分類されているだけなのと、ホームページを持っている助産所もごくわずかなのでどのような業務をしているのかはこの一覧からではよくわかりません。
全国助産所一覧http://www.midwife.or.jp/birthcenter_list.html


こつこつとweb上で検索していくしかないのですが、今回は「日本の開業助産師のホームページへのリンク」http://home.att.ne.jp/gold/mata/hp10j.htmというサイトに掲載されている助産所の業務内容と提示してある資格を書き出してみます。

<業務内容>
バッチフラワーレメディ、イトオテルミー、カイロプラティック、オステオパシー、骨盤体操、マタニティビクス、マタニティヨーガ、アロマセラピー、妊産婦のための整体基礎セミナー、オイルマッサージ、オーラソーマ、産後のヨーガ、アロマ整体、産前・産後のべびぃ整体、オステオパシーとカイロプラティックを取り入れた交感整体、クリスタルボウル、ベビーマッサージ、インファントマッサージ、安産灸、リフレクソロジーマクロビオティック初心者向け料理教室、抱っこ療法、ごしんじょう療法、骨盤ケア・ピラティス、ピィラティスエイジレスエクササイズ、ベビーボンディングケア教室,アーユルヴェーダ理論のベビー&チャイルドケア、アロマタッチケア、マンマリラクゼーション、よもぎ蒸、クレニオセークラルワーク、アーユルヴェーダ中医学、骨盤教室「呼吸する骨盤」、温浴器による腕・足湯(ゲウマニウムなど)、リフレクソロジー(英国式)、食養生、堤式乳房マッサージ、マタニティフィットネス、フェラワーレメディ、骨盤ネジ引き締めエクササイズ、アレルギーの相談、卵アレルギー(いい卵ならアレルギーがでない)、マクロちっくランチ、バランスボールエクササイズ、頭蓋仙骨療法のお手当て、アロマセラピートリートメント、トコちゃんベルト、受胎指導(精子卵子の質をよくしてよいタイミングで妊娠する方法)、桶谷式母乳育児相談室、スキンタッチ教室、小児ハリ、ボールエクササイズ、癒しのハーブ蒸、自彊術(じきょうじゅつ)、逆子・腰痛のケア、マタニティブリージング、ベビーテルミー、妊婦ロミロミ(ハワイ式マッサージ)、全身の手当て、冷え取り体験教室、自然療法、ホリスティックヘルス、マタニティフェイシャルマッサージ、マタニティカイロ、可視総合光線療法、思春期相談、更年期相談

<提示されている資格など>
聖イトオテルミー指導資格、誕生学協会認定ベビーマッサージ講師、日本カイロプラティック連合会正会員、マタニティビクス協会認定インストラクター、マタニティヨーガ協会指導者養成コース、日本アロマ環境協会アロマセラピー・アドバイザー、母子整体研究会・妊産婦のための整体基礎セミナー、イトオテルミー療術師、アロマコーディネーター、オーラソーマラクティショナリー、ICCAアロマセラピスト、RTA認定ロイヤルベビーマッサージ、日本ヒーリングセラピー研究所公認クリスタルボウルサウンドヒーラー認定、山田自然育児研究所研修、ベビーマッサージティーチャートレーニングコースNHS認定コース、国際インファントマッサージ協会公認インストラクター、日本誕生学協会認定誕生学アドバイザー、ママズケア認定ベビーマッサージ講師、玄米食を伝える食養ーダー、整体師、レイキプラクティッショナー、国際ボンディング協会ベビーボンディングケアスペシャリスト、ベビー&チャイルドケアマッサージアドバイザー、日本アーユルヴェダスクール専門科コース、日本マタニティフィットネス協会マタニティヨガ認定インストラクター、AROMA REVOLUTION認定アロマセラピスト、BABY&キッズ&ママヨーガインストラクター、日本助産リフレクソロジー研究会認定リフレクソロジスト、フラワーレメディスト、マドレボニータ認定産後セルフケアインストラクター、日本長命整体師認定整体師、サプリメント管理士


まだまだ全部把握しきれていませんが、すごいですねぇ。
ホメオパシーを掲げている助産所はさすがになくなりました。(いや、確認しきれていないだけかもしれませんが)


街中のカルチャースクールと大差ない内容なので、どれをみても助産師の資格がなくてもあるいは助産所の開設届けを出さなくても、十分に自由に開業できる内容ではないでしょうか。


医学的効果が不明確だったり未検証のものが出産育児関係で増えれば増えるだけ、妊産婦さんからの質問も増えます。
「○○がよいって聞いたのですけれどどうですか?」
生まれてくる赤ちゃんのことを考えて一生懸命なお母さんたちに、「効果はないです」「気休めです」という助産師は夢を打ち壊す冷たい助産師、あるいは妊産婦さんの気持ちを理解してくれない助産師と映るのだろうなと思いつつ、説明しなければいけない同業の助産師がいることにも気づいて欲しいものです。


kikulogの「助産院とホメオパシー(2009/10/16)でhttp://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/~kikuchi/weblog/index.php?UID=12557030902009年当時に助産師と代替療法について考えていた時期よりも、むしろ増えているような印象があります。


開業の中での助産業務って何でしょうか。
効果が未検証の代替療法あるいは民間療法のようなものが、なぜ助産所の中で広がっていくのでしょうか。
引き続き整理しながら考えてみたいと思います。


<追記、2012年4月13日>
日本一のホメオタのうさぎ林檎さんより、バッチフラワーレメディもホメオパシーだとご指摘いただきました。ありがとうございます。





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