他者に関心を持つということ 2 <助産師とニセ科学的研修会>

昨日に続いて人生を語るには経験不足で早すぎる私ですが、それでも、うまくいくことだけが充実した人生ではなく、困難な時やどん底の時にこそ何か大事な意味がありそこにじわーっと湧き出すものがあることぐらいはわかります。


さらに人の病や死に多く関わる機会のある看護職は、人生の不条理に向き合うのが日常生活の一部になっているともいえる仕事です。
病気や死の恐怖に直面し落ち込み、あるいはかわいい赤ちゃんを抱くことを楽しみにしていたのに一転喜びから悲しみへのどん底に突き落とされていく、本当に「かける言葉もない」状況に一緒にいなければいけない仕事でもあります。


だからこそ、「こうすれば人生ハッピー」「こうすれば人生うまくいく」ような話に対して、そんなものではないよといえるはずなのですが。


ニセ科学的な研修会その1>


親学の話題よりだいぶ前に見つけていたのですが、大阪府助産師会の研修会の内容には驚きました。
たまたま同じ大阪ということですが、全国どこでも同じような内容が受け入れられる素地があるのではないかと思います。


まずは今年4月に行われた研修会です。平成23年度になっていますが、今年の実施のようです。
大阪府助産師会 平成23年度4月定例研修会のお知らせ
「健康な子どもを生み育てるための食事  〜分子栄養学の立場から〜」
http://www.josansi.org/data/12/12-04-14.pdf


講師である杏林予防医学研究所の山田豊文氏という人の「分子栄養学セミナー」が5月に東京で行われるようです。
その紹介文です。

妊娠・授乳期の母体が子供の将来を決定づける


特に妊娠中・出産・授乳期は、子どもの性格・免疫を形成するにあたって重要で、プロスタグランディンの合成に大きく影響します。
これにはプライマリーアダプテーションシステムが関連しており、近年問題視されている子どもの健康障害や少年非行、犯罪などにも大きく影響しています。今こそ子どもの妊娠・出産・授乳期を見直し、革命を起こすことが必要なのです。
今回はプライマリーアダプテーションシステムを軸に、妊娠・出産・授乳期の重要性、子どもへの影響力についてお話します。


科学や医学の言葉をちりばめたまさにニセ科学の典型の文章だと思いますが、大阪府助産師会は本気でこれを会員に研修したのでしょうか。


分子栄養学と聞いただけでありゃっと思えるほどに私もここ数年で鍛えられましたが、たとえニセ科学を知らなくても杏林予防医学研究所のサイトを見てみると助産師が研修内容に選ぶものではないことぐらい見当がつきそうなものです。


アンチエイジング時代のスーパーヘルスプログラム」として「毛質分析(10,500円)」→「体質改善(体内汚染物質に合わせて解毒プラン)」→「クオリティライフの実現」という説明がされています。
これって問題になれば、「だまされた」という商法です。


助産師会はあのホメオパシー問題から何も学んでいないということですね。


ニセ科学的な研修会 その2>


さらにもうひとつ、同じ大阪府助産師会の6月定例研修会のおしらせです。
http://www.josansi.org/data/12/12-6.pdf

赤ちゃんがママに伝えたいメッセージ
死産・流産が伝える命の意味
〜聖なるお産・いのちの響育〜

・子を宿す意味
・お産の道(子宮・産道の役割)
・赤ちゃんがママ、友人に伝える命のメッセージ
・育児で自分を育む(心の解放)
・育みあうコミュニケーション


流産や死産を体験された方にしかわからない気持ちの変化を、産科に勤める助産師や看護師はどのように受け止め対応していくか学ぶ機会は大事です。


講師は、と見ると「胎話士」とあります。
またまた新しい資格とセミナー業ですか。
その講師のHPの冒頭の文章にはこんなことが書かれています。

胎話士・HugMotherで親しまれている"MIKIMIKI"は、胎児から大人、動物から植物までダイアログコミュニケーション"胎話"で笑顔と癒しのハートフルライフを届けます。
いのち輝くお手伝い!毎日が誕生日!毎日がハッピー!


キラキラ語とオカルトな内容に撃沈しそうになりますが、それでもご自身の体験を通して流産や死産に対して何か伝えようとされているなら、助産師としても学ぶ姿勢を持ちたいと思います。
略歴を読むと以下のような内容です。

4児のクリスタルリルドレンの母。(「チルドレン」かと思うのですが、原文のまま)
長男は帝王切開
Rh(-)、肥満、お産三代(これも「三大」かと思いますが、原文のまま)リスクを抱えながらも次男VBAC達成。
長女・三男は自宅にて家族のみで胎話しながらのスピリチュアルバース
妊娠中から胎話育児を行い、幼少時からの「いのちの対話力」を活かす」
・・・
心と体のデトックス、家庭でできるナチュラル療法を軸に、「セルフヒーリング」「セルフコーチング」を探求。
・・・
いつのまにやら「癒しの世界」を歩き始め、ヒーラーと呼ばれ早14年。


・・・
大阪府助産師会の会員の皆さんは、この方から本当に「流産・死産が伝える命の意味」を学ぶことができるのでしょうか。
RH(-)、さらに帝王切開後の自宅分娩経膣分娩というハイリスクの意味を、この講師に理解してもらうほうが助産師としての責任だと思いますけれどね。



助産師の自分探し>


これらの研修内容から、地域で出産・育児に関わる助産師が何か答えが得られると本気で考えているのでしょうか?
日々、新生児訪問や母乳相談、あるいは助産院や自宅分娩で関わる目の前の母子の問題が何かということさえ、見えていないのではないでしょうか。


その視線の先にあるのはお母さんや赤ちゃんたちではなく、「助産師の自分」をいかに盛りたてるかのようにみえてしまいます。
助産師の自分探し」版とでもいうのでしょうか。
なんだかそのあたりが、助産師とニセ科学が結びつく要因であるのではないかと感じています。
あくまでも個人で感じたことで根拠はないですけれど。