完全母乳という言葉を問い直す  14 <退院後のフォローがあればできるのか1>

自分自身の授乳支援の関わり方を振り返っての失敗談を続けます。


私が助産師になった頃は完全母乳という表現こそありませんでしたが、それでも「できるだけ母乳で」という雰囲気ができ始めていた頃でした。


<退院後のフォローで「母乳だけ」にならなかった場合>


当時「吸わせれば出るようになる」「適切なフォローがあればできる」と私も思っていました。
といってもそれは経験に基く確信ではなく、自分自身もよくわからなかったのでそのようにフォローできるようになりたいという思いでした。


就職した病院は退院後のフォローも比較的自由にできるところでしたので、私が出産に立ち会った方と入院中に直接吸い付けないとか母乳があまり出ていなくて不安というような方を退院後に自主的にフォローしていました。
必要があれば、自宅へも訪問させてもらいました。


今でもまだ退院後の具体的なフォローについて明確にした文献もありませんが、当時は自律授乳に変わりつつある時期で参考にできるようなものが何もなく手探り状態でした。
「自分が説明したことは、本当に退院後のお母さんに役に立っているのだろうか」ということが、とても不安でしたし責任を感じていました。


ですからフォローさせていただく際には、「自分もよくわからないことがたくさんあるので、私の勉強のために一緒に考えさせてください」とこちらからお願いしていました。


当時はメールもありませんでしたから、週に1〜2回電話で様子を伺い、必要があれば直接自宅へ見に行き、平均して1ヶ月から2ヶ月ぐらいまでの間の様子を学ばせていただきました。


当時は経過を記録していたのだと思いますが、ある程度するとだいだいパターンがわかってきたので記録をつけなくなってしまいました。ですから記憶に頼りながらの内容です。


結果は、産後2ヶ月まで電話や自宅を訪問して継続してフォローしても「母乳だけ」にならなかった方の方が多かったです。
もちろん、退院時に不安がある方や授乳方法に問題がある方などを主にフォローしていた結果ではありますが。



<母乳分泌は問題ない場合>


いろいろなパターンがありますが、まず明らかに母乳分泌自体は問題がないのにミルクを切ることができない場合があります。
直接吸わせている様子をみてもよく飲んでいる感じはあるのに、しょっちゅうぐずってはおっぱいを吸いたがる場合です。


これは「新生児にとって『吸う』ということはどういうことか 8」http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120227/1330305850や「新生児にとって哺乳行動とは何か 2」http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120229/1330474432で書いたように、母乳が足りなくて吸いつづけているのではなく、赤ちゃんはおそらく消化吸収排泄の段階を吸い続けることで待っているということなのではないかということに、当時は気づきませんでした。


とにかく授乳して寝かせつける、その時間が短ければ短いほど「母乳が出ている」と判断していました。


また初産婦さんと経産婦さんの母乳分泌の違いもよくわかっていませんでした。


お母さんのおっぱいを見て「全然問題ないからミルクを切って大丈夫だと思う」と励ましていたつもりですが、今考えるとそのお母さんにすればミルクを切ればずっとおっぱいを吸わせる状況に戻っていくことなのです。
特に初産婦さんの場合には。


実家にいる間はそれでもやれないことはないと思いますが、たいがいの場合1ヶ月前後からお母さん一人です。
誰も手伝いがいない中で、「吸わせ続ける」ことは現実的でないアドバイスということになるでしょう。


そのうちに、初産のときにフォローしていたお母さんたちと二人目の出産で再会し、後日談を聞く機会が増えました。
「3ヶ月頃から哺乳ビンを受け付けなくなった」「最初はほとんどミルクだったのに、離乳の頃からミルクを受け付けなくなって母乳と離乳食になった」などなど、本当に十人十色なのです。


母乳分泌のことばかりに気を取られて、肝心の赤ちゃんの哺乳行動が何をしているのか、どのように変化していくのか、どのような個人差があるのか知らないことばかりです。


ですから最近は、「足りないわけではないけれど、お腹の動きを待つ間くちゅくちゅと吸うのが長い赤ちゃんもいるのかもしれない。だから、付き合えるときは付き合って、家事や自分の身の回りのことに時間が必要なら生活のペースに合わせてミルクをうまく使ってもいいのでは」という説明にしています。


退院後のフォローの失敗談は続きます。




「完全母乳という言葉を問い直す」まとめはこちら