完全母乳という言葉を問い直す 15 <退院後のフォローがあればできるのか2>

退院後のフォローとして関わった対象として多かったのが、「退院時に赤ちゃんが体重増加期に入っていない」「直接吸えない、乳頭痛が強いなどのトラブル」「第一子のときに母乳がうまくいかなかった不安」などです。


<退院時に赤ちゃんが体重増加期に入っていない>


出生後に新生児の体重は平均して数%減少しますが、早い赤ちゃんであれば退院時には増加傾向になっています。
このあたりの割合がどうなのか、何が関与しているのかなどもよくわかっていないのではないかと思います。


体重増加期に入らないと、「母乳の分泌が少ない」と判断されることが多いのではないでしょうか。実際に体重増加期に入っていない赤ちゃんのお母さんは搾乳をしてみてもあまり出始めていなかったりします。


ですから最初の頃は、「退院してもできるだけミルクを足さないで、どんどんと母乳を吸わせてくださいね。(刺激が少ないと出なくなってしまうので)」と励ましていました。


でも特に初産のお母さんたちは、退院してみると最初の数日などは予想以上に生活のペースをつくることが大変です。結局は、ミルクを「使ってしまい」ます。


退院後1週間ぐらいで訪問してみると、まだ思ったように母乳が出始めていません。「もう少しミルクを減らして頑張ってみましょう(吸わせないと出なくなるから)」と再び励ましていました。


また母乳外来でフォローしている場合にも、こういう赤ちゃんの場合、退院後1週間前後で来院してもらうことが多いのではないかと思います。
その時に体重を測り、退院時体重との差を日割り計算して、一日に何g増えたから「母乳が出ている」「母乳がでていない」と判断しやすいのではないでしょうか。


そのうちに、この計算も意味がないのではないかと思うようになりました。
というのも退院後いつから体重増加期に入ったのか、誰も知らないわけですから。


たとえば体重が100g増えていたとします。
退院後翌日から増加期に入っていれば日割りにすれば16g前後「しか増えていない」という判断になっていまいますが、もしかすると母乳外来に来る2〜3日前から増加期に入っていれば、一日に50g前後で急激に体重が増え始めている可能性があるわけです。


<生後2〜3週間目で変化する可能性>



そんな体験を重ねていくうちに、生後2〜3週間ごろから体重増加期に入る赤ちゃんがけっこういることに気づきました。


そのあたりを境に、急激な体重増加期に入るのです。生後3週間目ぐらいに突然1週間で数百gも増加するときもあります。
ミルクの補足量は多少は増加はしているのですが、それほど「飲ませすぎ」という量でもないのです。
多くの場合、お母さんのおっぱいもその頃から急に出始めてきます。
「なんだか急に飲まれている感じがします」と。



母乳が出ていなかったから、体重がそれまで増えなかったのでしょうか?
ではなぜミルクを足していたのに、増えなかったのでしょう。
頑張って吸わせていたから母乳がようやく2週間ぐらいして出始めるようになったのでしょうか?
ミルクを足さずにもっとおっぱいだけを吸わせていたら、もっと早く出始めていたのでしょうか?



あくまでも私の個人的な考え方ですが、生後3週間ぐらいで体重増加期に入る赤ちゃんがいる、そういう赤ちゃんの場合お母さんのおっぱいもうまく出過ぎないように抑えられているのではないかと考えています。


そしてそういう赤ちゃんの特徴として、光線療法をするほどではないけれど黄疸が続いていることと、退院時に一見母乳便にはなっていてもあのヨーグルトのような甘酸っぱい臭いになっていない赤ちゃんが多いです。
そして体重増加期に入り始めると、急にうんちのにおいが変わってくるようです。(全員ではなかったですが)


ですから最近では退院時の体重減少率と黄疸、うんちの状態をみながら、だいたい増加期に入り始める時期を予測してアドバイスしています。
「それまではまずはゆっくり生活のペースをつくればよいので、疲れたらミルクをどうぞ。生後2〜3週間目ぐらいから赤ちゃんが変る時期があって、その頃から母乳も急に出始めてくるでしょう」という説明をしています。


なんだ、あんなに「吸わせないと出なくなるよ」というアドバイスをしなくても良かったのだと反省しています。
相当お母さんたちにプレッシャーを与えていたと思います。
また「一人目は出ませんでした」とおっしゃるお母さんの中にも、こういう場合がけっこうあるのではないかと思っています。
赤ちゃんの変化によって退院後に出始めていた可能性があるのですが、出なかったのはお母さんの体質とか努力とかの問題に思わされているのかもしれません。


新生児の変化について私たちは本当に知らないことが多いと思うこの頃です。
まだ続きます。




「完全母乳という言葉を問い直す」まとめはこちら