完全母乳という言葉を問い直す 32 <再び「母親の英知」より>

以前もどこかで書きましたが、最初の2〜3ヵ月ぐらい泣きながら育っているのかと思うほど大きな声でよく泣く赤ちゃんがいます。
目が覚めると激しく泣いておっぱいもダメ、あやして落ち着くのを待ってから授乳。そして少し飲むとまた激しく泣く・・・その繰り返しです。


お母さんのほうがノイローゼになるのではないかと心配してフォローしていた方が何人かいました。あるお母さんは「3ヶ月ごろから急に泣かなくなった。目が見えるようになってきたからかな」とおっしゃっていました。正解かどうかわかりませんが、お母さんというのは赤ちゃんの変化をよくみているものです。


ここ数年でしょうか。
入院中に激しく泣く赤ちゃんを前に、「家に帰ってこんな泣き方だと『虐待している』って思われちゃいますよね」と心配を口にする方が増えてきました。
以前は、お母さんの口から虐待なんて聞いたことはなかったのですが。


実際に近所の人から保健センターに通報されてしまったお母さんもいます。
ミルクをあげても泣くし、抱っこしてあやしても何をしても泣く赤ちゃんもいるのです。


本当に大変だなぁと思います。
おそらく昔の女性のように数人から10人ぐらい子どもを産み育てていれば、「泣いて大変な子もいるよ」ぐらいに受けとめてもらえたでしょう。
数人以上産んでいれば、母乳だけで育てられた子もいれば、母乳だけではだめだったという体験もすることでしょう。


<「母親の英知  母乳哺育の医療人類学」から>


ダナ・ラファエル氏の本を中心に完全母乳という言葉について書いてきました。
彼女のまとめの部分を長くなりますが引用してみます。(再掲の部分もあります)

母乳であるべきだ、いやミルクだと全か無かの論争は止めた方が良いでしょう。女性や赤ちゃんのためにどうするのが良いかについて、この文化の中ではこれといったふうに頭から考えを押し付けるのはこれからは避けるべきだと思います。
(中略)
私たちはもっと寛容にならねばいけません。女性の中には母乳哺育のできない人もいれば、したくない人もいるということを認めてあげて欲しいと思います。
数年前、母乳が流行らない時は母乳派は冷たくあしらわれました。逆に今は、流行だから母親は子どもに母乳を飲ませる義務があると説いてまわる騒々しいキャンペーンには用心したほうが良いのです。いかなる布告も断定もまたそれを出す人々も、実際の子どもを育てる現場からはほど遠いところにいるのだから、哺育をどうするかといったきわめて個人的な決定に口をはさむ資格などないはずです。強制と罪の意識は相互的なもので、強制すると母子関係にもうひとつストレスを加えることになります。


どちらかといえば、私たちは哺育行動の展望を語るときにはもっと状況に重点をおかねばならないと思います。母親のライフスタイル、男性の経済的地位、母親の支援ネットワーク、母親や赤ちゃんの口に入る食糧の量、入手できる度合いなどの重要な変数に注目しなければならないのです。


赤ちゃんだけでなく、母親の健康と福祉を守るための方法、政策に対する全体的な見解を求めます。貧しい母親の場合、過渡期にある女性の場合、働く女性、信念を持った女性の場合など現実にもとづいた対応策でなければ無意味です。


女性は自分のこどもの哺育をどうするかについて自分で選ぶ権利があり、皆自分に合った賢い選択をすることでしょう。これを無視して私たちの思い込みを押し付けるという間違いをすると赤ちゃんの命さえあやうくなりかねません。哺育方法を決める際はその家の経済状態が大きく影響すること、役所の認識以上にマザーリングのあり方が大事であることを私たちは全世界の母親のために主張してきました。今の世代の母親のために、この本に収録されている1人ひとりの力強い人生の記録を読んで、政府役人や厚生省その他母乳哺育や食糧についての決定を下す立場の人々が、より柔軟で人間的な食糧政策を進めなければならないことに気づいてくださることを願ってやみません。


「1人ひとりの力強い人生の記録」それは、これを読んでくださっている方のことでもあります。
女性であれ、男性であれ。


一人一人がそれぞれ悩みながら試行錯誤して進んでいくはずの人生に「これが完全」と規定されるようなものがあるはずはないし、まして完全に何かすることで必ず得られる健康もまたないはずだと思います。
だから母乳だけで育てることを完全母乳と表現することは、やはりどうしても引っかかってしまいます。


そして、一部の完全を求める人たちの動きによっていつのまにか「処方箋なしにはミルクが買えないようにする」ような社会2012-05-12 - ふぃっしゅ in the waterには決してしてはいけないと思います。



<おまけ>


気づいたら1ヶ月以上も完全母乳について書き続けていました。
お付き合いくださった方々には、本当にありがとうございます。


はてなは管理面に「何日間継続中」と出るのですが、1週間を超えると「もう少し」と思い、2週間を超えると「もう少し頑張れば1ヶ月連続更新だ」とついやる気になってしまいますね。
はてなダイアリー」が正式名称なので、三日坊主にさせないためでしょうか。


でも何事も頑張りすぎてもいけないので、一旦小休止することにします。
といっても書きたい話題はまだたくさんあるので、1日ぐらいのお休みかもしれないですが。
皆様もどうぞ頑張りすぎずにお過ごしくださいませ。




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