院内助産とは 3 <院内助産はどのようなものか>

何を持って「助産師が主体的」であるとするのか、そのあたりがいまだによくわかりません。
総合病院と診療所で勤務してきましたが、医師とともに働いてきて私自身が「主体的でない働き方だったのか」というとそんなことはないと思っています。


それでも、私も一部の助産師の「主体的に働く」意味が何をさしていて、何を求めているかはなんとなくわかります。
それはまたおいおい書いていくことにします。


今回は日本看護協会の「院内助産システムの推進について −助産師の活動に関する用語の定義ー」(2009年(H21)2月)に書かれている「看護・助産供給体制」から、具体的に院内助産とはどのようなものを指しているのか考えてみたいと思います。


<院内助産システムとは何をさしているのか>


日本看護協会の上記資料から引用します。
http://www.nurse.org.jp/home/innaijyosan/innai.html#yougo

看護・助産提供体制
助産外来や院内助産は、施設の規模や体制などによって、様々な形態により運用することができる。
このシステムを推進する看護・助産提供体制や入院のスペースは、施設の看護管理者を中心とする采配により編成が可能である。
特に、院内助産は、年間分娩件数、病床数、助産師数、設備などに応じて、様々な看護・助産提供体制をとることができる。

つまり院内助産システムという明確な方法はないということが、冒頭から明記されています。

年間分娩件数が多く(1,000件程度)、産科単科の病棟であり、助産師の人数が多い施設においては、スタッフをユニットなどにわけ、産婦のリスクやニーズに応じた助産ケアを提供する。
例えば、病棟の看護・助産提供単位を「産科ユニット」と「院内助産ユニット」などにわけ、産科ユニットがハイリスク産婦を、院内助産ユニットがローリスク産婦及び褥婦を受け持つなど、各々のニーズに応じたケアを提供する。
また、分娩室が複数ある場合、リスクに応じて分けて用いることもできる。
加えて、オープンシステムなどに資することも可能である。

一方、分娩件数の少ない場合及び診療所や産婦人科等の混合病棟においては、現行の体制での運用もできる。個々の妊産婦の状況に応じ、助産師と医師がチームとして、各々の構成人数や経験の度合いにより、ガイドラインに基いた個別のケアを提供する。


とってつけたように書かれているこの後半の「分娩件数の少ない場合及び診療所や産婦人科等の混合病棟」が、日本の分娩施設の大半を担っているわけです。


厚生労働省の「医療施設の動向」の「2-12分娩を実施した医療機関における1施設あたり分娩件数の年次推移」を見ると、一般病院で月平均42.3件、一般診療所で月平均29.7件の分娩件数になっています。
年間1000件以上の分娩を取り扱う施設はかなり限られた施設です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hoken/national/dl/22-03.pdf
ちなみに少し古い資料ですが、日本産婦人科学会は2004年の「分娩数上位30の施設」という統計を公表しています。
その後、産科崩壊という時代に入って分娩施設の集約化が加速したので状況は変化していますが、当時、大学病院がのきなみ1000件以下の分娩件数でした。
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/bunbensuuTOP30.pdf


「様々な形態により運用できる」のであれば、私が勤務してきたいくつかの総合病院と診療所での、「分娩入院の判断から分娩経過、分娩介助まで基本的に助産師の判断で行い、児娩出時には医師が立ち会う」方法も、「助産外来という名称はないけれど、妊婦健診のあとに助産師が保健指導を行う」方法も、「助産外来・院内助産」となんら変わりがないはずです。


あえて「助産外来・院内助産」と言わなくても、多くの施設が実施している現実に名前をつけたに過ぎないのではないでしょうか。


<「助産外来・院内助産」を標榜している施設はどれだけあるか>


助産師向け雑誌「PERiNATAL CARE ペリネイタルケア 」2011年12月号(メディカ出版)は、「今日から始める院内助産プロジェクト」という特集でした。


その中に助産外来・院内助産の実施施設数の推移が書かれています。

このような国の動きや関連団体の取り組みもあり、助産外来・院内助産の実施施設は、ここ数年で着実に増加してきました。
助産外来を実施している施設は厚生労働省看護課の調べによると、2008年273施設が2011年459施設(1.68倍)に、また院内助産は2008年31施設が2011年72施設(2.32倍)とほぼ倍増しています。 (p.13)

2008年に全国で分娩を取り扱う病院・診療所は2,567ヶ所、現在は減少傾向にありますが、その中で72施設を多いととるか少ないととるかは立場によっても変ることでしょう。


2011年2月26日に「助産師活用を進めるフォーラム 院内助産システムとは?」という公開フォーラムか開かれています。
その中では、院内助産数は59ヶ所と発表されていて、その数に対して日本看護協会の福井トシ子常任理事が以下のように発言しています。
http://nurse-time.com/blog/2011/02/28/4295.html

助産師の活用に対する医師の理解は進んでおり、むしろ分娩の不安など助産師の意識が問題だ。
研修の充実などで助産師の実践能力を高めることが必要だ。


思ったほど院内助産の数が増えないのは、助産師が自立しようとしないからだというとらえかたのようです。


本当にそうなのでしょうか?


私からみたら、院内助産なんてあえて言わなくても経過に問題のない分娩は助産師に任されている施設がもともと多いだけのことのように思いますが。


そして矛盾を抱えたことを推進しているということの結果でもあると思います。
次回はその矛盾とは何か、書いてみようと思います。





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