院内助産とは 4 <院内助産という言葉の矛盾>

日本看護協会が2004年に助産師外来・院内助産の普及推進を始めた頃、ちょうど新しい臨床研修医制度が始まり大学の医局からの産科医が派遣できず、分娩休止に追い込まれた病院が増えました。


市民病院など、それまで長く地域に根ざしていた医療機関から産科がなくなるなんて産科で働いてきた多くの助産師には夢にも思わなかったことです。
自分の勤務先がなくなるとか、地域で分娩を扱う施設が激減して就職先がなくなるなんてまさに晴天の霹靂のような年でした。


以降、産科崩壊と言われた時代に入ります。



「院内助産システム」の説明には決まって「産科医不足」という言葉が使われ、あたかも産科医不足がきっかけで解決のために助産師を活用するかのように書かれています。


でも助産師の中で2004年の産科医療機関の減少の始まりを予測していた人がどれだけいたのでしょうか?
その年に産科医不足のために「助産師外来・院内助産システム」を早急に始めたわけでは決してなく、それ以前から着々と「助産師が自立して助産ケアを行う」ための準備が進められていて、たまたま産科医不足が追い風になったということだと思います。


日本看護協会や院内助産を進めてきた人たちがもし産科医不足を予測していたのであれば、産科医不足を止めるための社会へのアピールがもっとあっても良いはずです。
妊産婦さんや患者さんを守るという視点で、そして病院勤務の助産師を守るという視点でも。


助産師の自立=開業権を死守したい>


表向きは産科医不足への対応ですが、「院内助産」という言葉には法律的に矛盾を抱えることになります。


まず「院内」というのは医療法に基く病院・診療所の施設を指し、「医師が医業を行う場所」ということになります。


それに対して「助産所」は同じ医療法で以下のように定められています。

助産師が公衆又は特定多数人のためその業務(病院又は診療所において行うものを除く。)を行う場所をいう
(医療法第2条)


つまり病院内での助産所という施設は法的には認められません。
ですから日本看護協会が出している「用語の定義」の中でも、わざわざ「この場合の『院内助産所』は医療法でいう『助産所』ではない」と注釈をつけたり、「院内助産所」ではなく「院内助産システム」と言い換える必要が出てくるわけです。


助産師が助産所を開設するには、開業届けを出して自らが開設者となる必要があります。
助産所を開設すれば、ローリスクの分娩を請け負うことができます。


「院内助産」なんて法的な矛盾を抱える表現を使わなくても、それなら助産所を開設することを推進すればよいのではないかと思います。
そうすれば、好きなだけ助産師主導で、好きなことを取り入れてお産をできるはずではないでしょうか。
助産師の自立を主張してきた人たちは、「多くのお産は医療介入はいらない」と言ってきたのですから。


2004年2月23日のチビダスの「病院でお産ができる院内助産院」という記事には以下のようなことが書かれています。

http://allabout.co.jp/gm/gc/188470/

(中略)病院シーンにおける2004年一番の願いごとは、「病院の中にも助産院が欲しい!」です。

そして佐野病院を紹介して、以下のように書かれています。

「外で開業して自分の助産院を持ちたい」という思いを持ったこと、でも現実には難しく、それなら病院の中に助産院のような形をつくろうと考えた。


また、2009年1月20日のチビダス「お産の新しい選択肢、院内助産システム」では以下のように書かれています。
http://allabout.co.jp/gm/gc/188872/

確かに安全で自然なお産を臨む妊婦にとっては助産所のケアと緊急時の医療の恩恵があれば安心してお産に望めるはずです。

つまりは助産所のケアでは安全性は低いことを認めているということでしょう。


助産所を開業して分娩を請け負うことは安全性での不安があるからこそ、助産所はここ20年増えることもありませんでした。
開業して分娩を扱う時代ではないことを肌身をもって感じているのが、実際に分娩介助をしている助産師なのです。


なんとかして助産師の分娩での開業権を死守したい。
その苦肉の策ともいえるでしょう。


けれども「緊急時の医療の恩恵」というのは、病院に助産所のようなものを作れば得られるものではなく、産科医がいてこその恩恵なわけです。
その産科医をお産の場にあえて登場させないことを売りにする院内助産システムは、そういう意味でも矛盾を抱えているということになるでしょう。




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