院内助産とは 5 <院内助産のイメージとは>

定義や言葉の意味を先に書いてきたのですが、いったい「院内助産」って何ですか?と思われる方のほうが多いのではないかと思います。


院内助産を開設している病院のHPを見ると、「あたたかいお産」「あなたらしいお産」「助産師が寄り添います」などの言葉が必ず書かれています。


どの施設も、それまでの産科病棟とは離れて「院内助産」を新設しています。
内装も「家庭的」のイメージに合わせて家具調のものを使用したりして工夫されています。


そして「分娩台ではなく、畳の部屋で自由な姿勢で産むフリースタイル」や上のお子さんが立ち会った写真を添えて「家族の絆」が強調されています。


率直な疑問としては、「それは医師が立ち会わないことが条件なのですか?」「その病院の院内助産ではない分娩は、そういうことが得られない分娩なのですか?」ということです。


「畳の上のお産」は感染管理上、私自身は否定的な意見をもっていますが、分娩台を使用してもぎりぎりまで好きな体勢をとってもらうようにすることはいくらでもできると思います。
というよりも、「対象(産婦さん)の苦痛を軽減するため」の体勢への援助は看護の本質とも言えるので、当然私たちが心がける必要があることだと思います。
あえてフリースタイルなんていわなくても・・・。


夫や上の子が立ち会う出産も、病院や診療所で実施しているところはたくさんあると思います。(正確な数値を見つけられなくてすみません)
助産師だけのお産でなければ、立会い出産ができないわけではないのです。
中には写真好きな産科医もいて、自ら出産後の家族写真を撮ってくださることもあります。
ずっと妊娠・出産を見守ってくれた人が一人でも多くその場に立ち会ってもらえたら、それは幸せなことではないでしょうか。



院内助産での出産はこんなに幸せ!のように強調されすぎていて、危ないなというのが私の印象です。


<院内助産でしか達成できないものはあるのであろうか?>


それはゆっくりした時間の流れかもしれません。


ローリスクを対象に月数件から10件程度の出産に、数人の助産師が待機しているのですから、お産が重なることも少ないでしょうし本当にゆっくり関われるのではないかと思います。


そして中には「経産婦」限定にしているところもあるようです。
経産婦さんなら入院して早ければ2〜3時間ぐらいで分娩になります。
しかも最初は陣痛も強くなくて上のお子さんと話をしていれば気がまぎれる程度です。
そのうち、一気に陣痛が強くなって30分とか1時間ぐらい助産師がついていれば出産は終了するぐらい経過が早いものです。
また初産の時に会陰切開や裂傷があっても、二人目以降はほとんど切れないか切れても浅い傷です。


経産婦さんを対象にした分娩介助は、助産師にしてみればとても気が楽です。


もし月に20件以上、初産婦も断らないという条件にしたらどうでしょうか。


経験的には、月の分娩件数が十数件以上になると分娩が重なることが増えました。
たとえば月に30件程度の分娩予定者なのに、なぜか一晩で5人ぐらい生まれるすごい夜が1年に何回かはあるのです。
そして月の分娩件数が増えるにしたがって、経過中に医療介入が必要な場合も増えます。



わずかの分娩予定者、しかも経産婦さんを対象にした院内助産であれば、ゆっくりとした時間も確保できることでしょう。


また施設によって、産科医が一人で24時間365日オンコール体制のような施設では、「経産婦さんのお産は助産師に任せた」というルールは確かに産科医の負担軽減には多少役に立つとは思います。


でもそれ以上分娩件数が増えたら、きっと今の産科病棟と同じように人手不足になってゆっくり「寄り添う」ことはまた理想のお産になることでしょう。


また産科病棟から離れた場所に院内助産所を設けることで、たとえ院内でも緊急時の対応に時間のロスが出る可能性もあります。
同じ病棟内で、「助産師だけの分娩介助」をしたほうが緊急時の医師の負担は少ないのではないかと思います。


「院内助産院」のイメージだけでは伝わらない、院内助産のあれこれを、産婦さん、助産師そして産科医のそれぞれから次に考えてみたいと思います。





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