院内助産とは 22 <チーム医療と院内助産>

「正常な分娩は助産師だけで介助」したいという助産師主導、医師不介入の分娩の場を確保する動きは、2004年頃の産科医不足を追い風にしてさらに強まりました。


そしてその次に2009年(平成21年)頃からの「チーム医療の推進に関する検討会」の議論で、特定看護師の位置づけで助産師業務を捉えなおそうという動きが「院内助産」を後押ししているようです。


当初、日本看護協会は、アメリカなどの「医師の指示を受けずに診療行為を行う『ナースプラクティッショナー(NP)』」の日本版を目指していたようですが、より慎重な議論が必要とのことで見送られました。


<「院内助産」と「助産師の役割」の矛盾>


「院内助産システム」を推進してきた遠藤俊子氏は、医学雑誌「産科と婦人科 2010年10月号」の「特集 産科医と助産師との連携はどこまでできる」(診断と治療社)の中で以下のように書いています。


「3.ナースプラクティッショナー制度と助産師」

この数年の産科医療の危機的な状況のなかで医師・助産師の協働を巡って、「院内助産システム」を推進してきた立場から、院内助産システムを担う助産師については、保健師助産師看護師法37条に示される以上の検査、医療機器の操作や一定の薬剤の包括指示等の必要性について喫緊の課題でもあるため、この機会に十分に検討されることが望ましい。(p.1147)

看護師の業務拡大の議論は医療の進歩によって複雑化し膨大となった業務の一片を担うという視点がありますが、助産師の「院内助産」の場合には産科医療が進歩すればするほどあらたな異常の範囲が広がり院内助産で扱える「正常経過の妊娠・出産」の範囲が狭くなっていくことになります。


たとえば20年以上前、GBS検査と陽性の場合の分娩前の抗生物質投与が標準的でなかった時代には正常範囲内として扱われていました。
GBS陽性であれば、助産院はもちろんのこと院内助産でも取り扱えません。


助産師の業務拡大を求める声というのは実は「正常」範囲の縮小の裏返しであって、「正常」と「医療介入をしないこと」を死守しようとすればするほど「異常」と「医療行為」を内包していく矛盾が出てくるということです。


つまり助産師の業務拡大の動きは「チーム医療の推進」の議論の中では一見整合性があるようで、実際に業務範囲が増えている他職種とは違う矛盾を抱えてしまうことになります。



また上記の「医療機器」というのはまず経腹エコーをさしているのだと思いますが、助産師外来でエコーをする意味は何でしょうか?
チーム医療の中でのそれぞれの医療職の役割の拡大という視点でいえば、臨床検査技師さんたちに妊婦健診のエコーを任せる方向のほうがエコー検査本来の異常の発見という点でもより専門性が活かせるはずです。


<「院内助産」と「助産師の役割拡大」の議論の背景にあるもの>


同じ「産科と婦人科 2010年10月号」では、「2.欧米助産師の業務範囲と医師との連携」(大石時子氏、日方圭子氏、宮本涼子氏、p.1139)の中で、検査オーダー、処方権、膣鏡診、会陰縫合、入退院の決定、紹介・搬送の決定などがある国の助産師を紹介したうえで、以下のように書いています。


日本の産科医不足が叫ばれるなか、助産師外来や院内外助産をうまく稼動させ、助産師の医師の上手な連携によって女性にスムーズなケアを提供させていくためには、欧米のように助産師に縫合や処方の権限も考慮した幅広い裁量権を与え、周産期の自律した担い手として認めていく政策が、日本にも必要な時が来ているように思われる。


産科医不足さらにチーム医療での業務拡大を追い風にして、院内助産という「医師がいない助産師だけの分娩介助の場」を確保しようという動きなのだろうと私には感じています。


それは明治の産婆以来の「正常なお産は助産師で」という出産をめぐる医師との境界線争いの流れでもあり、助産所が思うように増えない中での開業権を守りたいという強い思いがあるように見えます。


今までのそういう流れは実際にある程度分娩介助の経験もある助産師たちによって後押しされてきたと思います。


ところがここ数年の「チーム医療」の議論を見ていると、最近の助産師の高学歴化の流れの中で、最終学歴の高さと専門職としての力量の不整合をどうするかという助産師全体からみればごくごく一部の問題にすぎないことで「院内助産」が使われているようにも感じています。


大学院卒の助産師が出てきたことは、今後の周産期医療の中でどのように助産師の働く場所に影響していくのでしょうか。





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