院内助産とは 24 <院内助産に求められる経験>

「院内助産」という言葉を使わなくても、分娩入院の判断から分娩介助まで助産師に任されている施設は多いのではないかと思います。


少なくとも私が勤務してきた3ヶ所の総合病院ではそうでしたし、現在の勤務場所も分娩はほとんど任されています。
私の経験のほうが希有なのでしょうか?
そうは思えません。
ただ単に、全国でこのような施設がどれくらいあるのかという調査が実施されたり公表されていなかっただけのことだと思っています。



もちろん、新卒の助産師に任せることはないでしょう。
ではそのような施設では、経験量や実践能力がどのレベルになった助産師に分娩に関する判断を任せているのでしょうか?


私の勤務してきた病院では明らかな基準というものはありませんでしたが、産科医から見て「おおよそ任せて大丈夫」と思える力量と助産師同士でも「任せて大丈夫」と思えるレベルと言うのは言語化されていないだけで共有できるなにかがあるのではないかと思います。


<ベナーの5段階>


「ベナーの5段階」という、アメリカ人ベナーによる看護論があります。


ベナーは看護師のレベルを、初心者、新人、一人前、中堅そして達人の5段階に分類しました。


その中の「中堅(Profecient)」は以下のようなレベルの看護師を指します。

熟練者の実践は、約3〜5年間類似した患者集団を対象として働いている看護師たちにみられる。
一人前の段階から質的に飛躍がみられ、状況を部分ごととらえられる。
患者が急変する前に「なんだか変だ」とその兆候を察知するように、一から十まで全てわかった上ではなく、さっと見ただけで問題に気づく知覚である。自分自身の知識や能力に自信をもっており、目標や状況の変化に柔軟に応じることができる。
また状況の関連性の変化を見抜き、その変化に応じた状況に対する熟練した反応を認識し、対応する能力を持つ。
しかし、今までに経験したことのない状況の場合にはこのように対応できないので、状況を分析し、対処する方法を選ぶ。


新人(Advanced Beginner)、一人前(Competent)の時期を除いて3〜5年間、一つの職場でコツコツと経験を積み上げることによって「中堅」と呼ばれるようになる、というのは実体験からくる認識から共感できます。


助産師の場合もこの中堅レベルに達すると、おおよそ周囲の医師も助産師も「入院の判断から分娩経過を任せても大丈夫だろう」という安心感を持つのではないかと思います。


また当然、周産期医療に関する標準的な知識を持ち、思い込みや過信による無茶なことをしない節度のある態度も必要です。


助産師が分娩経過全般を任せてもらうには、それなりの信頼関係を築く期間も必要であるということです。



<院内助産に必要な熟練度とは>


「院内助産」や「助産師外来」を立ち上げる施設は、だいたいこの「中堅ナース」のレベルに相当する助産師を条件に設定しているのではないかと思います。


「院内助産」を掲げない病院であれば、すでにこのレベルの助産師は分娩経過の判断を任されているところもたくさんあります。
それは、同じ産科病棟内で分娩介助するか「院内助産」という独立した分娩の場所か、あるいは分娩の間際に産科医が立ち会うかどうかの違いかと思います。


独立した「院内助産所」にこの中堅レベルの助産師がごっそり移動しても困らないほどたくさん助産師がいる施設でない限り、院内助産は成り立たないことでしょう。
通常の施設では、ただでさえこの中堅レベルの助産師は結婚や出産で少なくなってしまう年代です。



中堅以前あるいは中堅になったばかりぐらいのレベルの助産師では、「自分のやりたいお産ができない」と思うのはまだ時期が早すぎるといえるでしょう。


そして中堅助産師には、さらに次の「達人」を目指して成長する機会が必要です。


「達人」レベルの助産師になれば、本来は分娩時の安全性に必要なものは何かが痛いほど分かるはずです。
「達人」レベルの助産師になると、自分の分娩介助に絶対の自信を持つことなく、逆説的に医師と共に分娩介助をすることが大事だと認識するのではないかと思います。


次回は、「達人」について書いてみようと思います。





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