医療介入とは 3 <初産と経産 続き>

前回の記事にコメントをいただいて、もう少し初産と経産について書いてみたくなりました。
私自身の臨床経験からの個人的体験談ですので、根拠はうすい話ですが。


<初産と経産のちがい、あれこれ>


妊娠中の経過でも初産と経産の違いを感じることがあります。


初めて妊娠し、子宮が増大し、腹筋や皮膚が伸展していく過程というのはつくづくすごいものだと思います。
とくに20週頃に急にお腹が目立ち始めたときと、30週ごろから急激に胎児が大きくなってお腹がぐんぐん大きくなっていく頃は不思議ですね。


そのあたりの時期に初産婦さんのお腹はもう皮膚がはちきれそうなぐらいパツパツなのですが、経産婦さんの皮膚は柔らかくまだまだ伸びそうという感じです。
初産婦さんだとだいたい35週ぐらいで逆子だとなかなか頭位に戻りにくくなる時期ですが、経産婦さんの場合は36週、37週に入っても自然に頭位にもどったりするぐらい柔らかさに余裕がある感じです。
あるいは双子の場合、初産婦さんの場合は2000gぐらいが二人で計4kgぐらいが限界という感じですが、経産婦さんの場合二人合わせて6kgでも大丈夫だったりします。


10年以上前までは、前回帝王切開後の経膣分娩(いわゆるVBAC)をしている病院に勤務していました。今はリスクを考えるとVBACの介助はしたくないですが。
初めての経膣分娩だから初産と同じような時間のかかる分娩経過になるわけではなく、どちらかというと経産婦さんと同じように進行の早いお産を多く体験しました。
不思議ですね。


経産婦さんでも、お産がゆっくりな場合があります。
上のお子さんよりも赤ちゃんの体重が大きいと、それだけ産道を広げる時間が必要なのでしょう。だいたい500g以上大きいと多少時間がかかるような印象です。
また、臍帯巻絡や臍帯が短いなどの臍帯因子があれば、赤ちゃんもゆっくり時間をかけることがあります。
でも骨盤内を下降してくる時期の早さは、やはりさすが経産婦さんという感じです。


初産婦さんでも、中には経産婦さんなみの早い出産になる方がいます。
切迫早産気味だった方は、やはり子宮口の開き方が早くなります。
あまり陣痛を感じずにお産になるラッキーな方もいます。
それから20歳前後の出産は、経産婦さんのような進行になることをしばしば体験します。その年代は組織が柔らかいのでしょうか。


ただ、初産の方があまり早いお産になるとトラブルもあります。産道が十分に柔らかくならないうちに一気に赤ちゃんが出てくるので、頚管裂傷、膣壁裂傷、そして会陰裂傷もひどくなりやすくなります。また会陰の皮下出血で血腫ができるのも、初産に多いのではないかと思います。
私が新卒の頃に一緒に働いていた70代後半の先輩助産師さんが、「早いお産はこわいのよ」といつもおっしゃっていましたがつくづくその言葉通りと思うこの頃です。


いずれにしても、経産婦さんのお産ははやくて医療処置という意味では、あまり手がかかりません。
経産婦さんから「お産が始まったかも」という電話がくると、その声の感じだけで来院したら分娩室に直行するかもしれないとわかるので、全て準備して待機します。


すぐに来院してもらっても、到着してから20分ぐらいで産まれることもめずらしくありません。
病院に到着した時点でうずくまっていようものなら、引きずってでも分娩室に連れて行きます。「ちょっと待って。動けない」と言われたらなおさらです。
破水でもしたら、一気に赤ちゃんが飛び出してくる可能性があります。


経産婦さん、おそるべし。


<初産と経産の赤ちゃんの違い>


初産婦さんの分娩経過のほうが平均して時間も長いし、胎児ジストレスやそれに対して吸引分娩などの急速遂娩術が必要になる可能性が高くなります。


当然、新生児仮死や一過性多呼吸などの出生直後の異常も増えると思うのですが、手元の産科学の文献それぞれの異常について初産・経産の割合に関する記述をみつけられないままでいます。


また胎児ジストレスを強く受けた場合や吸引分娩の児などは、生理的黄疸も強くなることは明らかになっています。
黄疸自体はまだ「生理的」な範囲なのですが、哺乳力が緩慢になったり、生理的体重減少が10%前後にまでなりやすくなったりします。


正期産の赤ちゃんで黄疸で光線療法が必要な場合の、初産・経産による割合についても文献が見当たらないのですが、日頃の印象としてはやはり初産婦さんの赤ちゃんの方が多いように思います。


母乳の場合、「生後早期の哺乳量の減少、摂取熱量の減少で生理的黄疸が増強される」(「ベッドサイドの新生児の診かた」南山堂)とあるように、初産の場合の初乳量の少なさも一因と考えられています。
その点、経産婦さんの場合ミルクを補足しなくても初乳量も多く、生理的黄疸が強くなる生後2〜3日目には尿・便の量も増えて、ビリルビンの排泄がされやすいというところでしょうか。


生理的黄疸や生理的体重減少期を越えて、安定した体重増加期に入るまで、初産婦さんとその赤ちゃんは、だいたい2〜3週間のフォローが必要なことが多いです。


退院後に体重チェックと黄疸チェックに来院してもらって、安定した増加期に入り始める生後3週間頃から、お母さんの母乳も安定して出始めることもよく体験します。


そういう意味でも、初産婦さんとその赤ちゃんは、出産時だけでなく生後1ヶ月頃までは丁寧に医療的なフォローが必要といえるでしょう。


<「今回の子はいい子だわ」と言いたくなる>


経産婦さんの場合、お産の経過が早い分、回復も早く心身ともに余裕がありますね。あの後陣痛(「あとばら」)の大変さを除けば。


赤ちゃんもお母さんの側であまり泣かないことが多く、また母乳だけでもすぐに眠ってくれることも多いです。


「今回の子は、手がかからないでいい子だわ!」と多くのお母さんがおっしゃいます。


でもそれは、上の子が産道をトンネル工事してくれたからお産も軽くなったわけですし、初産婦さんの弾力のあるおっぱいを時間をかけて出るようにしてくれたのも上の子のおかげともいえることでしょう。


なにより、初めての時に上の子に不安いっぱいで接する中で、赤ちゃんの泣き声や動きなどのさまざまなデーターを体に取り込んで、赤ちゃんへのお母さんのアンテナが発達したのだと思います。


新生児が胎外生活を始めた頃の変化と何を伝えようとして泣いているのかについては、「新生児にとって哺乳行動とは何か8」の「赤ちゃんの眠りと行動1〜4」あたりで書きました。
http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120326


初産婦さんは赤ちゃんを全身で観察して見守ることを初めて体験するので、赤ちゃんも「お母さんのアンテナが十分に私に向いていない」と察知するとぐずぐずと泣いて呼びかけようとします。
これを体験している経産婦さんの場合、きっと無意識のうちにも十分に赤ちゃんにアンテナが向けられているので赤ちゃんもあまり呼びかけなくて大丈夫なのかもしれませんね。


だから今回の子がいい子だからではなく(もちろんいい子ですよ)、上の子とともにお母さんご自身が成長したキャリアが、今の余裕になっているのだと思います。


それは、どこでどのような出産方法で産んでも同じ。


たとえば帝王切開のお母さんたちも、初めての帝王切開後は少し体の向きを変えるだけでも一苦労だったのに、2回目になると動き方もとてもスムーズです。余裕が違いますね。
本当に無駄な経験というのは無いといえるでしょう。


退院後は、また上の子の新たな成長に、お母さんも全力でお母さんのアンテナを発達させていかなければなりません。
何にしても一番上の子と共に、親は初めてのことに試行錯誤し親自身が成長しているのだといえるでしょう。


お産も育児も最初の体験を「うまくいかなかった」と思わなくて済むように、もう少し違う角度からお母さんたちが振り返られるようなお手伝いができたらと思っています。


今日はとりとめもない独り言でした。



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