医療介入とは 4  <妊娠の診断>

私が看護学生だった30年前はすでに日本は高度経済成長の真っ只中で、日本は先進国の仲間入りをしたと考えられていました。
卒業して勤務した病院も、国内ではかなり先進的な医療を取り入れているところでした。


それでもこの30年間を思い返すと、あの時代の医療はなんと未熟な診断技術や治療方法が多かったのだろうと思うほど、急激に医療が変化した時代の中で働いてきたのだとあらためて思います。


とりわけ救命救急医療とそれに関連した医療機器や医療技術の発達やシステムの拡充は、1980年代初頭から比べたら90年代に一気に加速して近未来がやってきたという感じです。


1980年代初めに、私が勤務していた病院には国内にまだ数台しかないCTが設置されて全国からたくさんの医療関係者が見学に来ていました。
ICU(集中治療室)がある病院もまだ限られていた時代に勤務先にはICUがありましたが、よほど長期に人工呼吸器管理が必要でなければ開頭術でさえも手術室から直接病棟へ戻ってきたくらいでした。


その数年後には病院にCTがあるのは当たり前、人工呼吸器も一般病棟で普通に使われるようになったと記憶しています。周手術期のICUでの術後管理も当たり前になりました。


周産期医療の中でも、周産期センターの拡充など救命救急医療の進歩はめざましいものがあります。


その周産期医療の進歩の中でも、案外地味な存在だけれどもすごく重要なものに妊娠判定薬とエコーがあるのではないかと思います。


<妊娠の診断とは>


最近ではドラッグストアーで手軽に妊娠判定薬が買えるようになったので、産科の初診の来院理由に「市販の判定薬で妊娠がわかった」と書かれるかたが大半になりました。


いつ頃から市販の妊娠判定薬が手に入りやすくなったのか正確な資料はないのですが、2000年代初頭まではまだ「生理が遅れている」「体調がわるい」「出血がある」「つわりのような症状がある」などの自覚症状から受診される方が多かったように記憶しています。


中にはお腹がだいぶ大きくなって胎動を感じてから、「妊娠と確信」して来院する方もいました。現在と違って妊婦健診は自費だったので、できるだけ出費を抑えたいと思う方もあったようです。


また1990年代にもすでに妊娠判定薬は市販されていたのですが、高価であったことと、現在に比べて感度が悪く妊娠8週ごろでようやく的中率が100%になる程度のものでしたから、場合によっては自覚症状のほうが早く妊娠を察知できるといえます。


妊娠判定薬がない時代であれば、「基礎体温表の高温期層」「腹部の増大」「胎動の自覚」そして「胎児心拍の聴取」まで待たなければ妊娠かどうか診断がつかなかったことでしょう。


<妊娠判定薬のメリット>


現在では受精から2週間、つまり早ければ最終月経から4週間で妊娠の可能性がわかるようになりました。


経膣エコーの診断とともに、正確な分娩予定日を出すことができるようになったことは、出産の安全性に大きく貢献したと思います。
これに関しては次回、エコーについての記事で詳しく書いてみようと思います。


もうひとつは、妊娠初期に起こる子宮外妊娠の管理が進んだことではないかと思います。


90年代に総合病院に勤務していた頃は、年に何回かは子宮外妊娠の破裂からショックを起こした方の緊急手術がありました。
子宮内ではなく卵管内など別の場所に着床した妊卵が成長すると、妊娠6〜7週以降に支えきれなくなった卵管や組織が破綻して腹腔内に大量出血することがあります。
妊娠に気づいていなかったり産婦人科にかかっていないことが多いので、やっかいでした。


現在のように妊娠4〜5週で受診されると、子宮腔内に胎のうが確認されるまでは常に子宮外妊娠の可能性も考えて早めに対応することができるようになりました。


子宮外妊娠の緊急手術がどれくらい減少したか資料がないので不正確なのですが、印象としては2000年頃からは緊急手術が少なくなったというのが個人的な印象です。もちろん、施設によっても差があると思いますが。


「周産期医学必修知識 第7版」(東京医学社)の「異所性妊娠」(p.210)には「近年発生頻度が増加しつつあることは日米の一致した見解である。」と書かれています。
子宮外妊娠自体は増えていても、未破裂の時期に対応ができるようになったのは妊娠判定薬で早い時期に受診してくれるようになったことが大きな要因という印象があります。


<妊娠判定薬のデメリットは?>

医学的にはデメリットといえるようなことはないかもしれません。
ただし、3000円前後とはいえ高価ではあると思います。


また、妊娠しても一部は早期のうちに本人も気づかないうちに自然流産し、通常の生理だと思っていることがあるようです。
妊娠判定薬を使わなければ一喜一憂せず気づかずにすんだ、とも言えるかもしれません。


それでもより正常に妊娠経過を送るための第一歩として、妊娠判定薬の進歩はメリットの大きい「医療介入」と言えるのではないでしょうか。



次回はエコーについて考えてみようと思います。