医療介入とは 12  <点滴、血管確保、子宮収縮剤、その1>

分娩時に点滴をした記憶がある方が多いのではないかと思います。


点滴と血管確保、そのどちらも静脈に留置針を入れることですが、目的は大きく二つに分けられます。


分娩進行中に発熱があったり、産婦さんが水分や食事を取れないときの脱水予防のために水分・電解質を補うことと、GBS(B群溶血性連鎖球菌)陽性や破水後の感染予防のために抗生物質を使用したり場合によっては降圧剤など薬剤を使用する場合のために点滴をすることがあります。
この場合には分娩開始後から比較的長い時間、持続点滴をすることになります。


もうひとつは、分娩直後に弛緩(しかん)出血といって子宮収縮が不十分で出血している場合にすぐに子宮収縮剤を使用できるようにしたり、異常出血時の出血性ショックにすぐに対応できるようにするために、あらかじめ点滴をします。
この場合には、分娩室に移動する施設であれば分娩室に入ってから、陣痛室と分娩室が兼ね備えられたLDRで出産する施設では分娩になるおよそ1〜2時間前を目安に、静脈に留置針を入れて血管確保をします。
またいつでも静脈から薬剤を使用できるようにするための「血管確保」が目的なので、点滴液自体は5%ブドウ糖などが主です。


<日本の産科施設でどれくらいの割合で実施されているか>


「科学的根拠に基く快適で安全な妊娠出産のためのガイドライン」の中の「RQ(リサーチクエスチョン)10:分娩時にルーティンの点滴は必要か?」から引用します。
http://sahswww.med.osaka-u.ac.jp/~osanguid/RQ10saisyuu.pdf

前回の本研究班の母親を対象とした全国調査によれば、分娩時に点滴を受けたのは全数3852名中2275名(65.7%)、施設別では大学病院で82.8%、一般病院71.1%、診療所67.3%、助産所3.5%の産婦に点滴が行われていた。
このうち、経膣分娩正期産単胎例の62.3%、陣痛誘発・促進例を除くと、55.8%の産婦に点滴を実施していた。
(中略)
尚、今回の調査においては、分娩時に点滴を受けたのは全数3599名中2560名(72.3%)であり、前回調査より増加している。医事紛争の増加等により、より安全性を追及して、点滴率が上昇している可能性がある。


私の推測(根拠はないのですが)では大学病院だけでなく、一般病院・診療所でも9割近くの点滴率ではないかと思っていたので、意外の低さにおどろきました。
私が勤務してきた総合病院、診療所では必ず実施していました。


ただ、ここで注意しなければいけないのは、調査は母親を対象にしたもので母親の記憶によるものだということがまずあります。


私の勤務先で前回出産したお母さんの次の分娩時に、「前の時と同じように出血に対応できるように点滴をいれますね」と説明すると、「え?点滴なんてしましたっけ?」という反応の方がけっこういらっしゃるのです。
点滴をしたこと自体を忘れるかたも少なからずいるのが事実です。


出産の記憶というのはあいまいになりやすいということは認識しておく必要があると思います。
点滴の実施率は、各施設に問い合わせればすぐにわかることなのですが、厚労省の研究班の手元にも日本の産科施設における点滴の実施率についての資料はないということでしょうか。


母親の記憶による調査結果、しかもわずか3600名程度の調査から数年間の変化について「医事紛争の増加等により、より安全性を追及して、点滴率が上昇している可能性がある」とまで推測するのは無理があるのではないかと思います。



私個人としては分娩直前の血管確保なしに分娩介助はしたくないし、日本の産科施設ではルティーンの処置としても良いと思います。



日本ではいつ頃から「血管確保」が行われてきたのか、「血管確保」の実際はどのようなものか、次回はおもに個人的体験談から考えてみたいと思います。



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