医療介入とは 14 <点滴、血管確保、子宮収縮剤、その3>

静脈内に留置針を挿入して点滴をつなげ、いつでも必要な薬剤を静脈内に注射できるようにすることを「血管確保」といいます。


薬を口から飲む内服の場合には薬の効果が出始めるまでに30分程度はかかりますし、効きかたもゆっくりです。
皮下注射、筋肉注射という方法もあるのですが、いずれも静脈内注射にくらべて効果が出始めるまでに時間がかかります。


静脈注射の場合、「全身に薬液が行きわたるのに要する時間は5〜10分と迅速である」(「改訂版 注射マニュアル」小学館)というぐらい効果の発現が早いものです。


その速さを比較すると、「皮下注1に対し、筋肉内注射2、静脈内注射10である」(同上)というくらい即効性があります。また、筋肉内注射などは一度注射してしまうと、効きすぎたり副作用が出ても調節できないのですが、静脈内注射の場合には効果をみながら投与量を調節しやすいメリットがあります。


ですから、静脈注射のための血管確保は救急対応には必需の方法です。


<血管確保に必要なことー技術>


医療製品がまず血管確保に必要であることは前回書きました。
それも製品自体が信頼できるものでなければなりません。
不良品が多い、十分な滅菌がされていない、あるいは輸送時に破損されやすいなどあれば、私たちは安全な医療を提供できません。
私たちはほとんどそういう心配をしなくて済んでいます。
本当に恵まれていると痛感します。


そしてどんなに優良の製品があっても、血管確保のための技術がなければそれは宝の持ち腐れということになってしまいます。


前回の記事で、私が助産師として最初に勤務した病院では「出血が多い時点で、必要があれば静脈留置針をさして点滴を開始していました」と書きました。


さらっと書いていますが、なぜそれが可能であったかといえば、血管確保をする技術に熟練していたスタッフばかりだったからです。


2002年4月18日の記事の中で、2002年(平成14年)に厚労省医政局長の「看護師等による静脈注射は診療補助行為の範疇である」という通達がでたことによって、看護師が血管確保や静脈内注射をすることが医師法17条に違反するかどうかという議論に一応決着がついたことを書きました。
http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120418


30年前に看護婦として就職した病院は国公立でしたので、静脈内注射や血管確保は医師がすることになっていました。
当時、民間病院ではすでに看護師が血管確保・静脈内注射をするのは当たり前でしたから、私が国公立の病院から民間の病院に移った時に一番困ったのが血管確保の技術を学び上達させることでした。
朝、申し送りの後に、高齢者の方々などの挿しにくい方々の点滴をいっせいに40人ほどにしなければいけないのですから、もたもたはしていられません。


そうして普段から見えにくい血管でも針を刺すことに慣れているスタッフばかりでしたから、分娩の緊急時でもすぐに対応できたのだと思います。


助産婦として働き始めた病院では70代後半の大先輩の助産婦さんもいらっしゃったのですが、バシバシと血管確保をしていました。
今考えると、あの方々は助産婦の激動の時代を生きてこられて、さらに医療の進歩の中で技術や知識が遅れないようにと相当努力をされていた方々だったのだと思います。


分娩監視装置も使いこなしていたし、分娩時の血管確保も適切にされていました。
「私たちはこんなものは使わなかったけれど大丈夫だった」と言うことは聞いたことがありませんでした。
むしろ、「ここまで無事に働き続けられたことだけが、本当にありがたいこと」と口ぐせのようにおっしゃっていた記憶があります。


もっとお話を伺っておけばよかった、ととても悔やんでいます。


ちょっと横道にそれましたが、分娩時の血管確保に必要な熟練とはどういうことでしょうか。


<血管確保に必要なことー熟練>


分娩室に入って血管確保をする状況というのは、どんな感じでしょうか。
妊娠後期に入ると循環血液量も増えるので、ふだん血管が細い方でも比較的静脈もわかりやすくなります。


ただし、陣痛が1〜2分おきになっている時期のわずかな間歇期にすばやく血管確保をする必要があります。
陣痛の合間のリラックスやマッサージをしながら、血管を探します。
赤ちゃんの心音も下がりやすい時期ですから、胎児心拍の観察も同時に行います。


またいきむために何かを握ったり体のむきを変えたりするのに邪魔にならないような部位を選ぶ必要があります。
手首の近くには太い静脈が出て針を刺しやすいのですが、手首を動かすことでもれやすくなります。
分娩時の血管確保では輸血にも対応できるように18G(ゲージ)の太い針を使うことが多いのですが、それだけの太い針が4cmほど留置できるまっすぐな血管部分を選択する必要があります。
また点滴をすることで点滴側の手指がむくんでしまうこともあります。できるだけ結婚指輪をはずしていただくのですが、妊娠中に指輪がはずれなくなってしまう方もいらっしゃいます。


それらのことを考えながら、産婦さんの両腕を見てぱっと針を刺す位置を決めていきます。


それは、分娩後の大出血などの緊急時に十分に耐えうる血管に確実に針を留置することが最も大事なことです。


こうした血管確保が確実にできるようになるには、回数を重ね、熟練していく以外にはありません。


分娩前の血管確保でも、なれないうちはあせってしまいうまくいかないものです。
スタッフによっても、血管確保が苦手な人もいます。
子育てなどで長く臨床を離れていたスタッフが仕事復帰した時に、この分娩時の緊迫した中での血管確保はちょっと逃げたい気持ちになるもののひとつのようです。


ましてや、分娩後出血などでさらに緊急性が高い時の血管確保は、もっと熟練が必要な技術です。
次回は、それについて書いてみます。




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