医療介入とは 15 <点滴、血管確保、子宮収縮剤、 その4>

緊急時の血管確保について書く前に、分娩の緊急時とはどのような状況でしょうか。


分娩時出血についてネット上で公開されている文献がありました。
「分娩時出血の初期対応(止める、入れる、送る)について」
弘前大学医学部付属病院周産母子センター
(青森臨産婦誌、第23巻第2号、2008年)
http://www.med.hirosaki-uc.ac.jp/~obste/rinsanpu/JASOG/JASOG23_8.pdf
(なぜかうまくリンクできないので、関心のある方はお手数ですが直接入力してください)


その「はじめに」の部分を引用します。

日頃分娩を取り扱う方であれば誰しも、分娩時の大量出血にこちらこそ血の気が引くような思いをした経験をお持ちではないだろうか。分娩後の出血による母体死亡は、妊産婦死亡全体の約20%を占めている。このため初期対応が極めて重要であり、止血が困難な時には一時的止血を図った上で、時期を失することなく高次病院へ搬送する必要がある。


どれだけ「血の気が引く思い」であるかは、2012年2月1日の記事「自宅出産の悲劇で母体死亡」http://d.hatena.ne.jp/fish-b/20120201の中で、産科医なな先生のブログを紹介しました。
再度、リンクします。
「医療者の視点から見た分娩時出血多量の1例」
http://blog.m3.com/nana/20060831/1


<分娩時大量出血の原因>


分娩時大量出血になる原因はいくつかあります。前述の論文から引用します。

経膣分娩時の出血原因としては弛緩(しかん)出血、頚管裂傷、下部産道の裂傷、胎盤卵膜遺残、子宮内反症など多々あるが、過去5年間の当科への搬送症例を分析するとほぼ半数を弛緩出血が占めていた。


なな先生の記事では子宮内反と頚管裂傷のケースでしたが、子宮内反症の発症率が2,000〜6,000分娩に1例程度に対して、弛緩出血は分娩に全分娩の3〜5%と、分娩に携わっていると日常的に遭遇するものです。
(頻度に関しては「周産期医学必修知識 第7版」(東京医学社、2011)より)



胎児と胎盤が娩出された直後、胎盤がはがれた部分から出血をしないように子宮は硬く収縮をしていきます。
この収縮が不十分だと、大量に出血をします。


児が大きかったり、羊水が多く妊娠中に子宮が引き伸ばされていた場合や微弱陣痛など弛緩出血を予測できる場合もありますが、ほとんどは予測困難で、つまりどの出産でも起こりうるということだと思います。


<実際にどのような状況でどれくらいの頻度で異常が起こっているのか>


現在、日本では分娩時出血(分娩中と分娩後2時間の総量)が500gを越えると異常出血としています。(今後は800g以上に変更される可能性もあるようですが)


ところで、弛緩出血が3〜5%という統計はどのように計算されたものなのか、私自身はよく知りません。



私が勤務してきた病院と現在の診療所では、最初の病院を除いては必ず分娩前から点滴で血管確保をしていました。
またすべての病院で、赤ちゃんが生まれると同時に子宮収縮剤を静脈内に投与しています。
出血が多いあるいは子宮収縮が悪いようであれば、積極的に子宮収縮剤を増加したり医師がすぐに診察をするので、年間分娩数300件程度のうち出血が1000gを越えるようなケースは2〜3人もいないくらいにおさまっています。



もし分娩時のルティーンの血管確保をやめる施設が増えて、子宮収縮剤の静脈内投与が遅れれば、それだけでも弛緩出血の発症頻度はもっと高くなる可能性があると思います。


分娩時出血が多い時には、分単位、いえ秒単位での対応が必要になってきます。


具体的にどのような対応をするのか、あらかじめ血管確保した場合としなかった場合の差はどうなのか、そのあたりを次回書いてみようと思います。




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