医療介入とは 25 <分娩監視装置  胎児の状態を連続して知るための唯一の機械>

<分娩監視装置と産婦さんの快適性>


お腹に陣痛計と心拍計の大きなトランスデューサー(直径6cmぐらいで厚みも2cm以上あります)を2本の太いベルトで固定するわけですから、「産婦さんの快適性」を問われれば、身体的には快適とはいえない状態だといえるでしょう。


ただし分娩監視装置をつけることは、出産関係の本で一般的に表現されているほど「仰向けの状態で動けない」わけでもないし、あるいは「アクティブ・バース」に書かれていた「このモニターは胎児仮死を察知しようとしながら、一方では、それが最も起こりそうな姿勢を母体に強制するという矛盾を犯しています」というほど罪深い機械でもないと思います。


側臥位でも、座位・立位でも装着できますし、無線式で動き回ることも可能です。
動き回ることで測定が不正確になりやすいので、「動かないで」と言われることもあるのだと思います。


でも、だからといって「産婦さんの快適性を損なうから、装着は最小限にする」のではなく、快適性を向上できるような技術開発に期待をしたほうがよいのではないかと思うのです。


私は分娩監視装置のメーカーの方が来院すると、もう少しトランスデューサーを小型・軽量化してベルトの固定をしなくてすむようなものを開発したら、産婦さんにも喜ばれるしきっと販売シェアもトップになると思いますと時々お願いしています。


でも原理的に小型化されるのには、まだまだ時間が必要そうです。


「周産期医学」2012年4月号(東京医学社)は「特集 CTGテキストブック2012」でした。
その中の「モニタリングの原理」(p.415)で、以下のように書かれていました。

超音波システムは送派超音波をどの方向に出すか、またどの方向から来た超音波を選択的に受け入れるかで感心領域が選択できる。これを指向性があるという。
ただし胎児監視用の超音波ドプラシステムでは分娩の進行とともに、また母体の陣痛や呼吸によっても、胎児は移動するのであまりに指向性が鋭すぎるとかえって非常に使いづらいものとなるため、故意に観測領域をやや広くとり、指向性の鈍い超音波システムを構成している。

正直、前半部分の技術的なことはチンプンカンプンですが、後半の部分は実際に装着していてよくわかります。
分娩進行に伴って胎児は位置をどんどん変えたり動きますから、あまり狭い範囲しかキャッチできないのであれば、しょっちゅうトランスデューサーをあわせなおさなければならなくなりそうです。


<分娩監視装置でわかるようになったこと>


分娩監視装置で、いったい何がわかるようになったのでしょうか?


上記「周産期医学」2012年4月号の「CTGは何を表し、何をどうやって知ることができるか」(p.409)から引用します。

子宮内の胎児は、胎盤機能不全、子宮収縮、臍帯圧迫などさまざまな要因によって、低酸素状態、さらに進んでアシドーシスに陥ることがあり、重篤な場合には脳などに不可逆な損傷を受けたり、死に至ることがある。
特に分娩中は、繰り返される強い子宮収縮によって、児に酸素が十分供給されない状況が急速に進行する危険性が高い。

でも、実際には直接胎児の血中酸素濃度を測定したり、連続でモニターすることは不可能です。

そこで、胎児血中の酸素分圧ないしは酸素飽和度を直接モニタする代わりに使用されるのがCTGである。すなわち心拍数は、交感神経・副交感神経系により調節されているが、これらの神経の中枢は血液ガスの情報や血圧などの情報を基に心拍数をコントロールする信号を出しているため、心拍数をモニタすることにより、低酸素状態やアシドーシスなど児の状態を推定することができると考えられる。

トラウベやドップラーで時々聞くだけでは「生きているか、死んでいるか」しかわからなかったものが、「元気かどうか」推定できるようになったということです。

CTGは、現在の胎児の状況を示すだけではない
たとえば、一過性であっても徐脈への間は胎盤循環血液量が減少して胎盤から、胎児への酸素供給量が減少するため、一過性徐脈が頻回に起こっている場合には、しだいに児が低酸素状態やアシドーシスに至るであろうという予測が成り立つ。

そう、この「予測が成り立つ」ということも分娩監視装置がなければできないものです。


なぜ予測が必要なのか。
それは胎児をできるだけ良い状態で世の中に送り出すという目的以外にありません。


<胎児をできるだけ良い状態で世の中に>


現在では、それは当たり前のことのように感じられる方もがほとんどでしょう。
でもこれまで何度か書いてきたように、わずか30〜40年前でもまだ「胎児はブラックボックス」の状態であったのです。


「生きて生まれてくるか、死んで出てくるか」人の力の及ばない時代と、「胎児をできるだけ良い状態で」と思えるようになった時代の間には、胎児に対する思いや感情にも大きな違いがあることでしょう。


それでも、ようやく分娩監視装置で胎児の変化や状態をある程度知ることができた段階にすぎないと言ってもよいのではないかと思います。
分娩監視装置の心拍数のパターンの定義など整理はされてきているけれども、実際の判読となると難しさがまだまだあります。


また、本当は分娩が始まったら連続してモニターしたデーターをもっと集積することで初めて、前回のアクティブ・バースの記事のように「正常なお産の生理」というものがあるのならそのときの胎児の状態はどうなのか、見えてくるものもあるでしょう。


私たちは未だに、分娩時の胎児の変化に関するデーターを十分に持っているとはいえません。


わかっていない段階で「CTG装着回数を減らしても大丈夫」とも言えないし、まして産婦さんの快適性と天秤にかける話でもないと思います。


次回はもう少し、具体的に分娩監視装置でどのようなことがわかるようになったのか、どのようなメリットがあるのか、個人的な体験談を書いてみようと思います。