「ペリネイタルケア 1月号」、おまえもか・・・。

助産師向けの雑誌には2誌あることを「これはないと思う『助産雑誌9月号』」で書きました。


医学書院の「助産雑誌」はどちらかというと民間療法や開業助産師の「技」のような文化的スタンス、それに対してメディカ出版の「ペリネイタルケア」は周産期医学に基づいた内容が多く医学的スタンスという感じで棲み分けているような印象を個人的には持っています。


メディカ出版からは上記雑誌以外にも周産期医学に関する専門書が多々出されていて参考になる反面、『分娩台よさようなら』など「自然なお産」系の話題本も出版しています。


さて比較的、医学的そして科学的思考の内容が多いと感じていたペリネイタルケアですが、最新号の2013年1月号にはこれはないよなと思う内容がありました。


ペリネイタルケアよ、おまえもか・・・という気分。


助産師は「冷え」ブームなのか?>


さて、気になった記事は、めぐみ助産院の岩田塔子氏の「伸びろ会陰!減らせ裂傷! 妊婦と歩む安産の道」という新連載です。


筆者は「安産」とはどういうことか、以下のような考えを書いています。

私の考える安産とは、「健康な母子であること」「出血が少ないこと」「スムーズな分娩経過」「会陰裂傷が小さいこと」「満足なお産」の5つを全て満たすものです。

この考え方に普遍性が得られるかというと疑問がありますが、今回問題と感じたのはその点ではなく、「安産のために一番大切なこと」と書かれた部分です。


筆者がマタニティクラスで妊婦さんに「安産のために、妊娠中に一番大切なことは何か」質問をしていることが書かれています。

私が求める答えは「温かい身体をつくること」です。

最近は「冷え」がトレンドなのですね。


そして「母親から児へ血液の流れる量が与える影響」をこう説明しています。

妊娠中、赤ちゃんは口からではなく、お母さんの血管ー胎盤臍帯ー胎児と血液を通じて栄養をもらいます。

これは医学的に間違っていないと思います。
問題は、以下の部分からです。

いつでもさらさらと血液が赤ちゃんに流れているほうがよいですね。お風呂に浸かっている時や、布団で眠りに入る時などに赤ちゃんはよく動きませんか?それは赤ちゃんに血液がたくさん流れていて温かく気持ちが良いからです。反対にギューッとお腹が張っている時は血管も圧迫されて、赤ちゃんに行く血液は減っています」と説明します。
実際、妊娠中の臍帯血流(PI,RI)などに途絶や逆流が生じると、児の予後に影響します。


<科学的に装って、科学的でないもの>


上記のような説明を、特に初めての妊婦さんが聞いた時にはどう感じるでしょうか?


おそらく、「さらさらな血液」「温かくて気持ち良い」というわかりやすい部分と「血流が途絶える」「児の予後に影響」という不安を持つ部分が記憶に残りやすいのではないでしょうか?


そして、「身体を温めると赤ちゃんも気持ちがよく、異常を防げる」と認識するのではないでしょうか?


何かに似ていますよね?


「納豆は○○に効く」というと、店先から納豆が売切れてしまう現象を引き起こすのと同じだと思います。


子宮収縮時には胎盤から臍帯への血流量が減ることもあります。
お腹が張ったり、陣痛が起きると、母体からの血流量が減少することで胎児心拍が徐脈になり赤ちゃんが「苦しい」というサインを示すこともあります。
また臍帯血流量をエコーで測定する必要のある、ハイリスクな赤ちゃんもいます。


けれども現時点で、母体の努力で胎児への血流量を減らさないことができることがあきらかになっているのは喫煙ぐらいではないかと思います。

 妊娠中の喫煙と早産や児の発育との関係性については、さまざまな報告がなされている。妊娠中の喫煙期間が長いほど、たばこの本数が多いほど早産や低出生体重児の危険性は大きくなるとされている。
 たばこに含まれている多くの化学物質の中でもニコチンを一酸化炭素が最も胎児への影響が大きく、喫煙することで、母体血液中にHbCOの形成によって胎児への酸素供給量が低下し、ニコチンにより母体の血管収縮や腎臓の血流状態が悪化、結果的に胎児に送られる酸素や栄養分を減少させる。

「周産期医学必修知識」(第7版、東京医学社、2011年)p.991


それ以外はまだよくわかっていないというべきではないでしょうか、助産師の立場では。


専門用語を入れて医学的に装った説明で、必要以上に妊婦さんを不安にさせることは保健指導としてよいケアといえるでしょうか?


<不安の先にいきつくもの・・・>


前回までの記事で紹介した「助産雑誌11月号」(医学書院、2012年)では、助産師側から「冷え」に対する対策などが示されています。

したがって、1.冷え症を改善することで、マイナートラブルの軽減になること、さらに2.規則的な生活をすることで直接マイナートラブルの軽減につながるのみならず、陰性食品の摂取にも影響を与え、食事内容が変化することにより、マイナートラブルの軽減にもなることが示唆された。
「冷えを科学する」(中村幸代、p.909)

「陰性食品」とは、「肉類など体を冷やす食品」と筆者は書いています。
「冷やすもの」としての食品の例は、「聖路加産科クリニックでのケア」でも「精製された砂糖や小麦粉」などがあげられています。


このキーワードから行き着く先はマクロビオティックでしょう。


あるいは「池川クリニックのケア」の中では、「ケア」の中に以下のことが書かれています。

・お灸教室やヨガ教室への参加を促す。
鍼灸院を紹介する。


こうして効果も明らかでないのに、いえそれ以前に必要以上に不安に思って解決しなければいけない状態でもない可能性が高いのに、妊婦さんたちの中には「冷えはいけない」とさまざまな代替療法への入り口に立ってしまう方もいらっしゃることでしょう。


気持ちがいいからする、ぐらいならいいですけれど。


不安にさせられ、「効果がある」と信じこまされれば砂糖玉でさえ効いたように思い込む。
あの教訓を助産師は学ぶ必要があるはずです。


不要な不安と出費を妊婦さんにもたらすだけでなく、本来「気持ちよい」程度にしておけば健康被害がなかったことも、時には母子を死や病気へ導くことになってしまいます。


助産師は詐欺の片棒を担ぐことがあってはならいとおもいます。




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