助産師と自然療法そして「お手当て」4 <子どもたちの「症状」とマクロビ>

夜になると「泣き止まない」とか「いつもと違うような気がする」と、お母さんたちが不安になって病棟に相談の電話が入ることがあります。


初めてのお母さんたちでもこうして電話をされる時にはだいたいは自分の中で答えが出ているけれども、「それで大丈夫」という一言が聞きたいのだろうなと思っています。
ですから、「退院して不安なことがあったら、いつでも電話してね」と話してあります。


産後1ヶ月頃までというのは、特に初めてのお母さん方にしたら、今まで見たことも接したこともない新生児を前にして、全身で赤ちゃんを観察している時期といえます。


不安なのは、よく赤ちゃんを観察していらっしゃって、いろいろなことを見て感じて、「これは大丈夫か」と常に判断をし続けているからではないかと思っています。


1ヶ月ぐらいを過ぎるとそれまで観察したデーター、泣くタイミングや泣き方、眠りのパターンなどがだいぶ蓄積されて、ふと楽になっていくようです。
「何だかわからないけれど、これは大丈夫だろう」と。


ところが1ヶ月を過ぎると脂漏性湿疹がピークの時期になったり、予防接種が始まったり、本格的に子どもの病気や症状に向き合う時期に入ってきます。


たとえば1ヶ月頃から出始める脂漏性湿疹は、浸出液まで出てかなりひどくなる赤ちゃんもいますが、適切にスキンケアをして必要があれば軟膏を使い3ヶ月ごろまで様子をみれば落ち着いてくるものです。


でも、皮膚がただれたようになった赤ちゃんを前にしたお母さんには、そういう気の長い話はなかなか耳に入らずとても不安になることでしょう。
あるいは、「自分がいけなかった」と罪悪感を強く感じる方もいらっしゃいます。


子どもの症状や病気。
それは大きな不安とともに、母親に罪悪感を感じさせやすいのだと思います。


前回の記事で私の母が手術の第一人者といわれた医師を探したのも、「こんな状態に産んでしまってごめんなさい」、そんな罪悪感のような居てもたってもいられない思いだったのだろうと思います。


そんな時に、「こうすれば治る」「こうすれば防げる」と言い切ってくれる話は希望に満ちたものに見えることでしょう。
あるいは「(母親として)自分で子どもの病気や症状に対応できる」のであれば、自信にもつながることでしょう。


そして本当は罪悪感を感じる必要はなかったとしても、その罪悪感を少し打ち消してくれる役目を果たしてくれるのかもしれません。
そして手間をかけることは、愛情を表現できるひとつの方法にもなります。


そんな時に、今まで気にもしなかった代替療法が目に入ってくるのかもしれません。


<「良い子が育つ食べ方」>


前回のこちらの記事で紹介した本のタイトルには、「良い子が育つ食べ方」と書かれています。
そして表紙の扉には、こう書かれています。

お子さんのアレルギーや喘息、落ち着きがない、集中力が足りないなど、カラダ、心、学力の不調はマクロビで調えることができるのです。
「良い子が育つ食べ方 子育てマクロビ教室」
(中 美恵著、講談社、2009年)

その本の「子どもを伸ばす食 行動・アタマ編」では、「落ち着きがない、ソワソワする」「奇声を発する」「泣きわめく、攻撃的になる」「クヨクヨする、泣き虫」「飽きっぽい」「異常にしゃべり続ける」「自閉症多動症」などがあげられています。


また「子どもを伸ばす食 カラダ編」では、「ケガの出血や鼻血」「熱が出やすい」「夜泣き・ムダ泣き」「風邪でのどが痛い」「便秘」「アトピー・アレルギー」「小児ぜん息」などがあげられています。


そしてそれぞれの項目で、「○○ちゃんはこれを食べるようになってその症状が落ち着いた」という体験談が書かれています。



子どもにとっては異常とも症状ともいえない状態を「治す必要があるもの」としてとらえているのは代替療法によくみるパターンです。
そしてさりげなく、自閉症アトピー、小児ぜん息など実際に診断名があるものまで混ぜていることも似ています。


たしかに、便秘や発熱などのように、一部は食事や「お手当て」といったもので対応できるものもあるでしょう。


けれども医学的に診断名がついている疾患や異常に対しては、食事は万能ではありませんし、ましてやミラクルを起こすことはそれこそまれなことでしょう。


また子どもというのは症状が悪化するのも早いのですが、治るときの回復力というのも驚くものがあります。
発熱や鼻出血も、あっという間に収まって元気よく遊びますね。


そういう短期的な回復力と、アトピー・ぜん息のように長い期間つき合いながら成長を待つ必要があるもの、あるいは自閉症のように「回復」ではなくよりよい過ごし方を一緒に考えていく必要があるものは、当然対応の仕方も変ってきます。


ところが、すべて食事で改善できるような万能感や自分の力で子どもを治せるかのようなわかりやすさが、不安や罪悪感を持つ方をひきつけてしまうのではないでしょうか。


身近な人が「これを食べれば、○○が良くなる」と言えば、いい加減なことを言って・・・ぐらいにしか思わないことでも、こうして本になればすごい話のように見えてしまいます。


罪深いことだ、と思わざるを得ません。
せっかく新生児の頃から全身で赤ちゃんを観察してきたお母さんたちの能力を、違う方向へ向けてしまうこういう考え方に対して。




助産師と自然療法そして「お手当て」」まとめはこちら