助産師と自然療法そして「お手当て」5 <子どもたちと「好転反応」>

以前、小児科との混合病棟に勤務していたときもありました。
重症のケースはもっと大きな病院へ依頼していましたが、気管支喘息、肺炎あるいは川崎病などに対応していました。


子どもたちというのは入院時には発熱でぐったりしていても、点滴を開始して半日もするとだいぶ元気が出てきます。
遊び始めると、もう大丈夫。
今度は、元気さで逆に体力を消耗したり症状がぶりかえさないように気をつけることが大事でした。


小児看護も成人と同じように、疾患別の全身の観察方法が標準化されています。


中には、日中は熱が下がっても夜になると再び上がる疾患もあります。
時には症状がぶり返して、一進一退のこともあります。


それでも発症直後の急性期から回復過程の間に、「症状が悪化することはよいこと」というとらえ方をしたことはなかったと思います。


当時私が参考にしていた「小児看護」(桑野タイ子監修、中央法規、2000年)には、以下のように小児の回復期について書かれています。

 小児の回復力は目ざましい。自覚症状が消失し、いったん病勢が回復の転帰をとると体力の回復に伴い、小児はすぐに体動が多くなる。特に乳幼児は疲労感を自覚しないので、運動が過度になるおそれがあるので注意する。
 運動量のコントロールはむずかしいが、再発や再燃があり、感染症を併発する危険があるので注意する。(中略)
バイタルサイン(*)、食事、睡眠、機嫌のよさが目安となる。
(*)体温、脈拍、呼吸数など


そう、症状の悪化は、再発や再燃あるいは合併症の危険を意味します。


<「好転反応」>


ところがこうした症状の悪化を、「好転反応」と表現する考え方があります。


私がその言葉を知ったのは2008年頃のことでした。助産師の中にホメオパシーが広がっていることを知り、ホメオパシーだけでなく代替療法とは何か調べているうちに知りました。


ネット上には代替療法の問題を追及しているすぐれたブログがたくさんあって、その中に「好転反応」という症状の悪化で時には命を落としていったニュースが伝えられていて、愕然としたものです。


大人であれば症状が悪くなったときに、「もしかしたらこの方法は間違っているのでは?」と自分で気づき引き返すこともできるかもしれません。


でも子どもたちは・・・。


「12日間集中講座 岡田恭子のハッピーマクロビオティック教室」(岡田恭子、日東書院、2006年)の中には、子どもの「好転反応」について書かれた箇所があります。


まず「好転反応」について、以下のように書かれています。

始めてから1年間は、さまざまな好転反応が表れます。マクロビオティックを実践する上で、これを乗り切れるかがポイントになります。

好転反応例」には次のようなものがあげられています。

●瘦せる (説明は略)
●臭いおならが止まらない (説明は略)
●便秘になる、または下痢になる (説明は略)
●生理に異変が起こる (説明は略)
●湿疹が出る・・・身体の一部、または全身に湿疹が出ます。特にアトピーや花粉症の人にその傾向が強いです。
●出血・・・昔、結核を患った人は血痰が、子宮筋腫の人は大量の出血があります。
●鼻が悪い人は黄色い鼻汁が出ます。
●その他、眠い、だるい、頭が痛いなどの症状や、昔、治ったはずの病気が復活することも、これも排毒症状です。


(強調は引用者による)

一応、著者は「好転反応対策」として「出血等の症状がある場合は必ず病院に行き、診断を受けましょう」「私は西洋医学を否定しているわけではありません」と書いています。


ところが「(出血など以外は、)1年間で細胞全体がきれいになると思って続けましょう。(中略)好転反応が出たら、お祝いをするくらいのつもりで!」と、やはり好転反応は良い兆しであるかのようにとらえています。


さて、子どもの好転反応について書かれた部分は、次のアトピー対策についてです。

アトピー対策
こちらも白砂糖断ち、果物断ち、そして玄米食でかなり改善されます。ただし、強い排毒が始まり、全身に強烈な湿疹と高熱が出ることも多々あるので、子どもの場合、またはゆるやかな改善を望む場合は、白米に雑穀をプラスした菜食か、分づき米(三分)での菜食を続けることをおすすめします。


砂糖の取りすぎは良くないというのは、それなりに納得できるものです。


ところがマクロビの場合は「白砂糖」であり、精製した砂糖はマクロビの「食材は丸ごと全て食べる」という原則に反しているというだけであることは、doramaoさんのこちらの記事にわかりやすく書かれています。


上記の引用文では、子どもに対しては好転反応を起こさせないよう別の対応をするという意味ではなく、あくまでも好転反応は喜ぶべきものというニュアンスではないかと思います。


マクロビに限らず「好転反応」を信じてしまったご両親が、症状の悪化や栄養障害で子どもを時に死に至らせてしまうことが実際に起きています。


好転反応」という現代医学では在り得ない概念を使っている療法を、私たち医療従事者は決して勧めてはいけないと思います。
特に、子どもたちには生命の危機をもたらすこともあります。
また、そのやり方を嫌だと思っても表現できない立場なのです。


冒頭で紹介した「小児看護」では、小児看護の特徴としてナイチンゲールの文章から始まっています。

病気の子どもの生命を絶えさすことは、ろうそくの火を吹き消すのと同様、いともたやすいこと。
「看護覚え書」現代社、p.206


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