助産師と自然療法そして「お手当て」14 <マクロビの安産と難産>

前回に引き続き、大森一慧氏の本の「食をととのえて迎える出産は、トラブルが少なく、安定している」という小見出しの部分から考えてみます。


「安産」と「難産」という表現は日常的には使われるのですが、実際には定義もないし学問的には使われない言葉です。
ですから助産師が自分の考える「安産」を表現するのも自由ですが、定義として普遍性は得られにくいのではないかと思います。


<大森氏の考える安産と難産とは>


大森一慧氏自身が考える安産と難産とは何かとまとめた部分は見つからず、いきなり安産と難産になる体型の分類から説明されています。

安産になるか難産になるかは、母体の筋肉の柔軟性によるところが多いといわれています。

未精白の穀物と野菜、海藻の食事を続けているお母さんの筋肉はやわらかく、腰が発達していて安産型です。

一方、動物性食品が多い食生活のお母さんの場合、肩の筋肉が発達していて腰部はしまっています。いわゆる逆三角形の体つきで、筋肉はかたく、出産においてトラブルをおこしやすい体型です。

体型、特に骨格は遺伝的な素因によるところが大きいと一般的には考えるでしょうから、きちんとその疑問にも予防線の答えが書かれています。

今から食事を変えて、体型がすぐに変わるというわけにはいきませんが、子宮口の筋肉がかた過ぎてなかなか赤ちゃんが出てこれないとか、非常に痛いお産になる、といったことは免れると思うのです。


<観察する、仮説をたてる、そして検証する>


大森一慧氏が自身の6人の出産体験だけでなく、マクロビを普及する活動の中でであった女性とその経験談を聞くうちに、「もしかしたら安産と難産は、母体の筋肉の柔軟性が関係しているのではないか」と、対象を観察して得た仮説であるならそれはそれでおもしろい研究につながっていく可能性を秘めたものになったと思います。


私個人も、「ある運動で特定の筋肉を集中して鍛えた場合、産道周辺が固くなり分娩に時間がかかりやすい可能性があるのではないか」とか「胸部の筋肉を集中的に使い鍛えられた場合に、乳房トラブルを起こしやすい傾向があるのではないか」といった自分なりの仮説のようなものを持っています。


ただそのような対象に出会えるのは何年かに一人ぐらいの割合なので、たった数人のケースで、自分の仮説が証明されたといえるわけではありません。


また、仮説をたてる段階で、十分にその表現が客観的であるか吟味する必要があります。


たとえば「筋肉が『柔らかい』あるいは『硬い』というのはどういう意味か」「腰部が発達しているというのはどのようなことか」という用語の定義が必要になります。


そうした用語の定義も十分に考慮した上で、「安産と難産は、母体の筋肉の柔軟性が関係している可能性がある」という仮説が立てられたら、その次に証明する方法を考えます。


できるかぎり大勢の人を対象にした体型と食習慣、そしてお産の聞き取り調査をすることで、その仮説を検証することもできると思います。


ところが、検証をしたわけではないようです。
おしいですね。


「個人的体験談は効果を証明したことにはならない」


マクロビオティックも対象の観察、仮説までは科学的な視点を持っているのに、証明する段階を飛ばして結論が出てしまっているのだと思います。


こうした個人の考えやある権威が唱えた考え方に盲従する時代(パターナリズムというのでしょう)から、医療の現場は20年以上前に抜け出そうとしています。


ですから助産師も代替療法を取り入れる際には、その方法はどのように検証されているのか、リスクは何かといった点まで十分に理解することが必要です。


そして助産師が効果があるのではないかと考えて代替療法を取り入れるのであれば、その効果を客観的に実証していく責任も負うということです。
医療の中で認められるだけの、実証が必要になります。
効果がなければ、それを認めて訂正する必要があります。



マクロビオティックを取り入れた助産師は、そのあたりどう考えているでしょうか。


さて、マクロビオティックでは、定義もあいまいなままの仮説が妊娠・出産に対して次々と応用されていきます。
次回は具体的な内容を見てみたいと思います。




助産師と自然療法そして「お手当て」」まとめはこちら