助産師と自然療法そして「お手当て」16 <マクロビ「妊娠・出産・育児のなんでも相談編」>

今回の記事から、いいよいよマクロビオティックの妊娠・出産・育児に関するいわば各論の部分を見ていこうと思います。


引き続き、大森一慧氏の「自然派ママの食事と出産・育児」(サンマーク出版、2005年)の内容を紹介していきます。


著者は栄養士の資格を持ち、「陰陽」に基づいた穀類菜食で、6人の子を「無事に自宅出産」し育てたということはこちらで紹介しました。


その自身の体験に基づいて書かれたという本だそうです。


具体的にどのような出産だったのかわかりませんが、出産は平均して2〜4人目あたりが異常の危険性も少ないような印象です。
経産婦さんはいわゆる軽いお産という経過になるのですが、回を重ねるにつれて弛緩出血や胎盤の異常、あるいは加齢に伴って合併症の危険性も出てきます。


ですからおおよそ5人目以降の出産の方を、私たちは頻産婦としてハイリスクととらえています。


日々出産を見ている私にしたら、大森一慧氏は偶然何もおきなくて本当に幸運な方でしたね、という感じです。


ただし、栄養士の勉強をされ栄養に関心を持って妊娠、産後を過ごされたのではないかと思いますので、自身の体験からアドバイスできることもあると思います。


ただ、ざっとマクロビの料理本を見て参考になるのは、BMIが25以上の方が野菜類を多くとって体重コントロールをする場合と、妊婦さんは便秘がちになるので食物繊維を多くとるための食事として参考になる程度でしょうか。


便秘、いわゆる妊娠中のマイナートラブルのひとつです。


ところが、上記の本ではかなり医学的な判断が必要な場面に踏み込んだ回答をしています。
自身の体験を大きく超えた内容ではいかと思う事が書かれています。


<驚きのQ&A、「妊娠中のきがかりなこと」>


「妊娠中の気がかりなこと」から引用します。

Q4. 一人目を産んだとき、胎児が子宮にいるのに胎盤がはがれてしまう「胎盤早期剥離」が起こってしまいました。どんな食事が原因だったのでしょうか?二人目を産むにあたって、食べ方や日々の過ごし方でどんなことに気をつけたらよいのでしょうか?

A. 胎盤早期剥離は、陰性の食事、例えば甘いものや果物、酢の物などが多かったり、おかずが多いことが原因と考えられています。清涼飲料水などの多飲でも起こるので、まずこれらの陰性食物を控えることが肝心。穀物と野菜の食事に切り替えて、穀物が食事全体の60〜70%
の食生活をこころがけてください。体を動かし、規則正しい生活を。

Q5. 妊娠後期ですが、逆子が直りません。逆子になるのはどうしてでしょう。直す方法は?

A. 逆子は主食に対して副食過多、つまりおかずが多いことが原因です。どういうことかというと、人間の胎児は体より脳のほうが重いのが正常で、体のほうが重いと逆子になります。脳の栄養となるのはブドウ糖で、これにはごはんのでんぷんからつくられるブドウ糖が最適。だから、ごはんが少ないと脳が重くならないことになり、逆子になるというわけです。
副食を減らし、主食をしっかり食べると、正常な位置に戻ります。

Q7. 妊娠7ヶ月ですが、赤ちゃんのへその緒が首に巻きついている、と診断されました。なぜ巻きついてしまったのでしょう。出産までに直せますか?

A. お母さんの食事内容にムラがあるのでしょう。その影響を受けた子宮内環境の変化につれて、赤ちゃんが回転したためと考えられます。直ることは保証できませんが、へその緒が巻きついていても自然分娩できる場合もあります。状況しだい、といわざるを得ません。

ここでいつもの「周産期必修知識」(東京医学社)から、胎盤早期剥離とはあるいは逆子(骨盤位)とは、と引用してもよいのですが、その必要も無いほどでたらめな内容だと思います。


科学を装って科学で無いもの、医学を装って医学で無いもの。


ニセ科学の世界には、科学的(あるいは医学的な)正解で説得するのではなく別のアプローチが必要ということを、私もホメオパシーの件以降学んできました。


ニセ科学に惹かれるとき>


私自身が看護学生の頃、親から送られてきた「病気と因縁」のような話を信じてしまったことを、「私とニセ科学的なものについてのあれこれ」で書きました。


どんなことが書いてあったかというと、「結核になるのは、くよくよと悩むため」とか「梅毒になるのは、先祖をきちんと祀っていないため」といったような内容でした。


もちろん、教科書にはそんなことが書いてあるはずはありません。


結核には結核菌の感染が原因であり、梅毒もスピロヘーターが性行為や母子間で感染することが書かれていました。
そういう医学的知識を学んでいる傍ら、不合理な答えのほうを信じてしまっていました。


「ではなぜその感染や病気に自分が当たってしまうのか」。
たくさんの疾患を学ばなければいけない中で、おそらくその不安に対しての答えが欲しかったのではないかと思います。


もし近所の人から上記のようなことを言われても「いい加減なことを言って」と思うのに、本に書かれていたり、宗教団体であったりあるいは代替療法の組織であれば不合理とわかっていても何か信じてしまいやすいのかもしれません。


今思い出すと自分の馬鹿らしさに赤面しそうですが、当時は不安で不安でしかたがなかったのだと思います。
二十歳前後の若い時に、真剣に人生の生老病死に向き合って学ばなければならなかったのですから。


でもたとえば子供の頃にはおばけや暗闇が怖かったのにいつの間にか平気になっていくように、病気や老い、死に対しても不安はあるけれど真正面から向き合う勇気も出てくるものです。


日々、妊産婦さんあるいはそのご家族から、私たちはその勇気をまたもらっています。
思うようにならない妊娠・出産の中で、大きな不安を抱えながらも乗り越えていかれます。


不安を理解しつつ、具体的に現実的なサポート方法を一緒に考える。
それが私たち助産師の仕事だと思います。


そこを助産師が代替療法でごまかしてしまうのであれば、自分自身のなんらかの不安の裏返しであることを直視することが大事だろうと思います。




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