助産師と自然療法そして「お手当て」 28 <骨盤の収縮?ー産後の骨盤万能論>

整体を調べていると、整体という言葉自体が何を指しているのか全体像が見えてきません。


整体のサイトをみると、ある人は野口整体一筋であり、ある人はカイロプラクティックを取り入れて整体と呼んだり、中にはきちんとあん摩指圧マッサージ師の国家資格があるにもかかわらず野口整体的なものやカイロプラクティックあるいはオステオパシーなどを取り入れて、「自分なりの方法を模索している」ということを書かれている人もいます。


つまりは、自分で好きなように「理論づけて体系化」できるのが整体なのかもしれません。


妊娠・出産に関係した整体もまた、野口整体がもとにあることを感じさせるものやカイロプラクティックの考えを取り入れたものもあります。


今回からしばらくは、野口晴哉氏の「誕生前後の生活」(全生社、昭和53年初版)に書かれたことが基本になっていると思われる考え方についてみていこうと思います。


<「分娩後の骨盤の収縮」>


「出産後の骨盤は開ききっていて、その左右の骨盤が均等に閉まるまでは起き上がってはいけない」「左右の腋下の体温が一致したら、起き上がる」という、産科では聞いたこともないことがごく一部の妊産婦さんの間で実践されているのを聞いたのは、2008〜9年頃の「助産院は安全?」の中であったと記憶しています。


そのもとになるのが、この「誕生前後の生活」の「分娩後の骨盤の収縮」(p.46)ではないかと思いますので紹介します。

母体は分娩すると、骨盤が自然に縮んできます。縮む場合に、左右が片側ずつ縮んでくるのです。縮む方の体温が高いのです。だから両方の体温を調べると、左右違うのです。揃った時は左右一緒になるが、また差が出てくるのです。そうして片側づつ縮んでいる間は、寝ているほうがスムーズにいくのです。或る時機がくると、左右一緒に縮まりだす。その時は体温も揃い、腰椎四の二側の弾力が両方揃ってきます。その機に起きると、骨盤がきちんとしてまた女らしく美しくなる。喘息があれば喘息がなくなる。土台である骨盤が動く時機ですから、体の改善に利用できるのです。

「骨盤がきちんとすると女らしく美しくなる」というところで、先を読む気を失いそうになりましたが、このあたりも現在の「骨盤ケア」につながってくる考えなのかもしれません。


そして喘息以外に、この方法でさまざまなことを良くしたと書いてあります。

 私は分娩を利用していろいろな体の歪みを整体に導きました。その中で、分娩食後に針を持つと目を毀(こわ)すと言われておりますが、骨盤をきちんとすると、受胎前より視力は増えるのです。乱視とか近視とか、あるいは特別な視力の異常もよくなりました。
 その中で緑内障と言われている人が治ったという例がかなりあるのです。これも妊娠関係の異常と考えたらよく、腸骨を調整するとよくなってくる。骨盤の後始末で調整できる

 眼だけでなく、分娩後に起こった喘息、蓄膿症、リウマチ、神経痛、或いは太り過ぎ、やせ過ぎも変わります。或る奥さんは32キロ減ったそうです。(中略)それは骨盤を閉めただけなのですが、分娩を利用すると大幅な変化を起こすことができる。痙攣、寝小便、神経痛といったようなものも、分娩後の収縮の経過をスムースにすることで治ってしまう。

骨盤万能論は、精神分裂病(現在の統合失調症)にまで言及しています。

 又、分娩の後で分裂病を起こす人が時々ありますが、これは部屋を暗くして静かにしていればなくなります。だから分娩の後、しばらくは部屋を暗くして急に明るいところへ出ないようにしていれば、ほとんどの場合、精神分裂病にはなりません。


<「産褥から起きる時その見定め」>


具体的に起きる時機について以下のように書かれています。

「ここで起きる」という時機の見定めさえやればいい。しかしその時機の見定めが難しいのです。片側ずつ縮んでいくうちに左右揃うことがあるのです。この時は左右の体温も揃うのです。体温計を二本揃えて同時に計ることでわかるのですが、骨盤が揃ってそれから体温が揃うので少し遅れるけれども、知らないで当てずっぽうに起きるよりはいい。方法は胎盤が出てから八時間毎に計る。両方計って揃ったとき、それが三度目に揃った時に三十分〜一時間、正座する。そしてまた寝るのです。翌日から普段の生活に戻る。これが分娩後の起き方です。

 便所に起きたといっても骨盤の縮まりは止まってしまうのです。一度起きてしまったら、それから先にいくら寝ても駄目なのです。

そのために、産後、まったくの寝たきり生活で、排泄に関しては家族の全介助を受ける生活をするようです。


この本の元になる講演が、1971(昭和46)年ですから、当時の医学レベルではわかっていないこともたくさんあった時代です。


また国民皆保険制度になってようやく10年。出産の大半が医療施設で行われるようになったとしても、妊娠・出産に関する知識や情報というのはまだいきわたっていない時代ではないかと思います。


妊娠・出産時の腰痛はほとんどの方が体験するものであり、「骨盤の左右の収縮」とか「骨盤の後始末」「骨盤の調整」と言われると、なんとなくそんなものなのかと納得させられてしまいやすいのかもしれません。


次回は、現代にもこの骨盤万能論ともいえるような説を勧めている人、信じて実践している人について考えてみようと思います。




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