助産師と自然療法そして「お手当て」 30 <野口整体の「ショック」という考え方>

前回の記事で紹介した、分娩後に「左右の骨盤が揃うまで、左右の体温を測定して一致するまでは安静臥床のまま過ごす」ということともに、もうひとつ、琴子ちゃんのお母さん経由で「仙骨ショック」がどうやら整体的な考えかたからきているらしいということを知りました。


助産院は安全?」の魚拓の中で写真は見られなくなりましたが、「仙骨ショック」とは何かが少しわかるキャプションが残っています。

寝た状態で、助産師さんに膝を押されます。足を離されたら、その反動で妊婦が思いっきりのけぞります。

そして仙骨を思いっきり畳にガーンと打ち付けます

その記事のタイトルに「仙骨ショックで陣痛を起こせ?!」とあるように、陣痛を起こす目的のようです。


妊婦さんの腹部や腰部へ衝撃があたるようなことは、胎盤早期剥離を起こす可能性があるので、通常では考えられないほど危険な方法です。


リンク先の「助産院は安全?」の記事の中で、琴子ちゃんのお母さんが「どういうことからこの仙骨ショックがお産と関わるようになったのか」と疑問を書かれています。


私も当時こんなことが実際にされていることが信じられず、ネットで調べてみたのですがわからないままでしたが、野口晴哉氏の「誕生前後の生活」(全生社、昭和53年初版)の中に、少し手がかりになるような箇所を見つけました。


<「分娩が遅い場合の手伝い方」>


陣痛を起こすための「仙骨ショック」ではありませんが、「分娩が遅い場合の手伝い方」として似たような内容が書かれています。

仰向けになって、足を立ててください。どちらか開きにくい方があります。開きにくい方を出来るだけ寄せておいて、開きやすい方を瞬間、こうやるのです、そうすると大抵つかえているのが出てきます。それで出ない場合には、今度はその逆をやるのです、続けて。

実演しながらの説明のようで読んでも具体的な方法がよくわからないのですが、この方法はおそらく、児が産道内を下降してくる分娩第二期に時間がかかっている場合の対応方法ではないかと思います。


また「仙骨を畳に打ち付ける」ものとも違います。


ただ、この箇所に続き、野口晴哉氏は「後産に時間がかかる」場合、つまり胎盤がなかなか娩出されない場合と新生児仮死の対応方法にも言及しています。


分娩の「異常経過」に対しての治療行為ともとれる内容がかなり書かれています。


野口整体の中での「ショック」>


上記の本の中には、実際に「ショック」という表現を使った箇所があります。


医学的にショックというと末梢循環不全のことですが、野口整体の場合には全く異なるようです。


「悪阻(おそ)と腰椎五」という箇所で、以下のようにあります。

悪阻は血液毒の清算、受胎によって起こる新陳代謝異常の調整方法、或いはそれまでの体の掃除を行う働きのように思われます。そこで悪阻がひどいほど根性が悪いということになり、そして根性の悪い人ほどせっせと悪阻をやる必要があります。私も当然そういう考え方で、悪阻を治すということは一度も考えないできました。

つわりは「根性が悪いから」なると考えていたようです。

ところが或る時、腰椎五の引っ込んでいる人があったので、それをショックして正常になるように誘導しました。そうしたら悪阻が途端になくなるのです。
それからは悪阻をやっている人がいると腰椎五を調べ、それに愉気をしてショックをすると悪阻がなくなるのです。
妊娠すると骨盤が広がってきます。腰椎五をショックするとその拡がりがよくなります。これは普段の体で実験して判ったのですが、ひょっとしたら拡がりのつかえが悪阻の理由ではないだろうかと思い・・・

つわりは「根性が悪い」ことが原因ではないと考えなおされたことは幸いですが、「骨盤の拡がり」とか「拡がりのつかえ」となると想像上の産物でしかないのですけれど。


さてここで「ショック」と表現しているのは、「愉気(ゆき)」のことのようです。
愉気とは整体では「手をあてる」ことのようですが、ただ当てただけでもだめなようでどうやら奥が深いもののようです。


<腰椎「ショック」と流産、そして優生思想>


この腰椎五のショック、つまり手をあてる方法は流産の危険性があると野口晴哉氏は書いています。

 腰椎五の両側を押さえて愉気をします。或いは骨盤の拡がりを誘導するように処理しますと、悪阻はなくなります。
 ただ稀にそれを急激にやると流産する人がいます。

それでは腰に手を当てても、場所によっては流産してしまうことにもなりそうですが・・・。

ところが腰椎五にショックするとそういう癖のある人はさっさと出てしまう。梅毒などを以前患った人もやはり腰椎五で出てしまう。
そこでこれは異常産の調整ではないかなと思った。異常なら出たほうがいいのですから、別段流産などは警戒しないで普通にやって、耐えれば産み、耐えなければ出てしまうので、これはいいと思って腰椎五のショックはずっとやっています。


12週未満の早期流産について、「50〜70%は胎芽(胎児)の染色体異常が原因とされている。そうした流産は動物としての自然淘汰現象ととらえられ、それを回避することは不可能と考えられている」(「周産期医学必修知識 第7版」より)というとらえ方に近いものではありますが、野口氏の真意は違うところにあるようです。

 整体協会で扱った出産には片輪がいない。異常児がいない。妊娠三ヶ月に腰椎五のショックといえばトンと叩くだけですから、気休めのようなつもりで戦争前はやっておりました。その間一人の片輪も生まれなかった。

「マクロビの安産志向の背景にある思想」で紹介した、桜澤如一(ゆきかず)氏の「難産の子供は、人生の第一歩から不幸で、おまけに一生不幸」に通じるものを感じます。


富国強兵政策の時代に生きざるを得なかった人たちに優生思想が根強くあることを現代から批判するのは後付の批判でしかないのですが、野口整体にはこうした考え方があったことは認識しておいたほうがよいかと思いました。


<再び、助産師の行った仙骨ショックとは?>


野口晴哉氏のいう腰椎ショックも、「トンと叩くだけ」とあります。


となると、冒頭の部分で紹介した助産師が陣痛を起こすために仙骨部を畳に打ち付ける方法とはどこからきたのでしょうか?


今でも信じてその方法を実施している人がいるのであれば、本当に危険なので即刻やめるべきです。


そして「医師の医学的判断および技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし又は危害を及ぼす恐れのある行為」を「医療類似行為」として明確にしたことの意味を、助産師側はもう一度考えなおす必要があると思います。




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