助産とは 1 <「診断」とは何かー看護診断>

分娩監視装置(胎児心拍陣痛モニター、CTG)と超音波画像診断機器はどちらも超音波診断検査であり、周産期医療の中では欠かせないものになりました。


どちらも「診断」機器です。


これらの超音波診断機器を助産師が使用する際の法的根拠について考えていくうちに、「助産」とはなにかよくわからなくなってきました。


そこで「助産とは」という新しいタイトルで考えていくことにします。
またしばらく、言葉の意味や法律などの少々退屈な話が続きます。
すみません。


助産と「診断」>


助産師がこれらの診断機器を取り扱うとする場合に明確にする必要があるのが、「診断」とは何をさしているかということです。


Wikipediaからの引用ですが、「診断」とは以下のように説明されています。

一般的に診断とは、医療においては健康状態あるいは病気を患者の徴候や他方向の結果から見分ける診断手続きである。結果に対するこの過程を診断と呼ぶ。

最近では「経営診断」など医療以外でも目にする言葉ですが、私が看護学校を卒業した30年ほど前は医師にしか使うことができない言葉であると受け止めていました。


医師の判断を間近でみて臨床経験が増えてくると、症状や異常を報告するときにもつい「診断名」を口にしてしまうことがあります。
たとえば「排尿時痛があって、膀胱炎だと思いますが・・・」のように。
そうすると「看護師が診断してはいけない」と、医師や先輩からも叱られたものです。


私にとって「診断」という言葉は、医師と看護職の明確な境界線を認識させる言葉でした。


そのうちに、看護職の中でも「診断」という言葉が使われるようになってきました。


<「看護診断」という言葉が聞かれ始めた時代>


「看護診断」。看護関係の方でなければ耳慣れない言葉ではないかと思います。


看護診断がわかりやすく説明されている文を紹介します。

看護診断とは看護過程の段階のひとつ。看護アセスメントに基づき、対象者に起こっている問題を診断する。NANDAの看護診断が用いられる場合が多い。
看護診断は医学的診断とは異なり、生活上の問題点に焦点が当てられる。


看護診断は診断名と関連因子に分けられる。例えば「転倒の危険性」という問題が「筋力低下や「見当識障害に伴う転倒の危険性」と表す。

NANDA(北米看護診断協会、ナンダ)の看護診断が日本で使われ始めたのは、はっきりした記憶がないのですが十数年前くらいでしょうか。


最初、NANDAの看護診断を読んだ時は、「なんだ、これ?」という駄洒落のような感想でした。


もし私が患者として入院した時に、担当の看護師がちょっと元気のない私のことを観察して、「運動と活動を行う能力の喪失による影響」とか「活動耐性低下」とか表現したらどうでしょうか?


そう表現された私自身が、その日本語であって日本語でないようなその言葉の意味を理解できないし、もっと違う状態であることを伝えたくなるかもしれません。


あえて、非日常的な(看護職以外には通用しない)言葉で患者について観察したことを表現し、カテゴライズする意味は何か。


NANDAの看護診断を私自身は使ったことはありませんが、当時に比べて私自身の臨床経験が増えた今、その目的が見えてきました。
「なんだ、『達人看護師』の判断や行動を標準化しようとしているものなのか」と。


「達人(エキスパート)」をベナーは以下のように表現しています。

状況を直感的に把握し、他の診断や解決方法があるのではないかと苦慮することなく正確な方法に照準をあわせることができる

中堅から達人レベルになると、患者さんを目の前にしてNANDAの看護診断のような言葉に置き換えなくても、一瞬にして看護アセスメントをして看護計画が頭の中に浮かびながら行動しているわけです。


それを「対処方法のガイドラインがあれば一通りの行動はできるが、実際の状況下で何を優先にするか判断できない」初心者の看護師でも、できるだけ同じレベルの看護ができるようにするためであるといえるでしょう。


看護「診断」というのは、熟練した経験でつちかった判断力を分類し、一般化する方法と理解しました。


医師の診断というのは、最終的に疾患を鑑別してより正確な治療方法を選択することがゴールといえるかもしれません。


それに対して、看護「診断」は疾患の治療や予防という点で「生活上の問題点」を明らかにすることに重点を置いていることと、医師のような「疾患」という一般化したゴールがないということが大きな違いです。


また医師対患者は基本的に1対1であるのに対して、看護の場合たくさんの看護スタッフがかかわりますから、できるだけ統一した判断と対応方法でひとりの患者さんに関わることが重要です。


日勤と夜勤で、スタッフが変るたびに違うことを言われては患者さんも混乱していまいます。
また達人級から初心者の看護師と入れ替わっても、できるだけ看護の質を落とさないようにすることも大事です。


そう考えれば、看護「診断」よりは看護過程の「判断」という表現の方が適しているように私は考えるのですが。


当時、私は看護界がこの「看護診断」という言葉を取り入れた時点で、ちょっと間違った方向に進んでしまったのではないかと感じました。
そして、今も。
うまく表現できないのですが。


助産師の中では、「診断」というのはどのように使われてきたのでしょうか。
そのあたりを次回考えてみようと思います。



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