昨年出された「新版 助産師業務要覧 第2版」(日本看護協会、2012年)には、聞きなれない言葉が使われています。
「産婦と胎児の健康診査」です。
「実践編」の「2.分娩期のケア」で使われていて、以下のように書かれています。
分娩時の健康診査は、産婦の情報を収集し、安全で快適に出産できるように助産診断を行い、適切なケアを提供することを目的とする。ここでは、医療施設での出産を前提とし、分娩各期の健康診査とケアの概要について述べる。
私が学生時代に「助産計画」と学んだものが「助産診断」という表現になり、その助産診断をするための観察を「産婦と胎児の健康診査」あるいは「分娩時の健康診査」と言っているようです。
「健康診査」、それは適切な使い方でしょうか。
<助産師と「健康診査」>
以前から、助産師の中で「健康診査」が法的にあいまいなままに使われていることは気になっていました。
医師による妊婦健診を誰もが受けられるわけではなかった時代に、産婆・助産婦の保健指導の機会が異常の早期発見のためにかかせないものであったことを「妊婦健診と保健指導、その法的根拠」で書きました。
保助看法には「保健指導」しか明記されていないのに、いつのまにか助産師が妊婦健診を行えるかのように感じているのは、こうした歴史認識のねじれかもしれません。
健康診査について、Wikipediaの「健康診断」では以下のように説明されています。
健康診断(けんこうしんだん)とは、診察および各種の検査で健康状態を評価することで、健康の維持や疾患の予防・早期発見に役立てるものである。健診・健康診査とも呼ばれる。
当然、医師による診察をもって健康診査と呼ぶことが許されるものです。
助産所の中には、産科医・小児科医ではなく助産師自らが母子の1ヶ月健診を実施していることを明記しているところもあります。
助産婦が産後1ヶ月までの母子を責任をもってみることが、その当時の医療レベルでは必要な時代もあったことでしょう。
より高度な医療の時代になり、自らの資格では手に負えないものは取り扱わないように職域を見直し明確にすることは、社会に対して専門職側がもつべき大事な責任だと思います。
<分娩時の健康診査という言葉>
ところが、分娩時の助産計画にまで「分娩時の健康診査」という今までの健康診査では聞いたこともない使い方を助産師側が「助産師業務要覧」で表明したことに、私はとても不安をおぼえます。
では、具体的に「分娩時の健康診査」とは何でしょうか?
(1)入院時の観察とケア
分娩を前提とした産婦と胎児の診察は、1.問診、2.外診(視診・触診、聴診)、3.内診、4.胎児心拍数陣痛図をもとに行う。
つまりは、観察を診察と言い換えて、入院時の観察を「健康診査」と言い換えているにすぎないことです。
言い換える必要はあるのでしょうか?
入院時の観察とケアのほうが、私たち助産師の仕事を的確に表現できていると思うのですが。
どうも助産師の世界には自らを医師に近い存在に見せたいひとがいるということを、最近よく感じます。
医師と助産師の境界線をあえてあいまいにして、助産師の医療行為を拡大させたいひとたちが。
高度な医療の時代になって、より高度な観察の知識や技術も、そしてより質の高いケアも求められています。
もはや助産師の手に負えない対応は、より専門的知識を持つ医師に返し、私たちは観察やケアを極めていくというのではダメなのでしょうか?
いったい助産師とは何をしたいひとたちなのだろう。
どこへ向かっているのでしょうか。