新生児の世話をはじめたばかりのお母さん達が気になることの最上位と言ってもよいことに、「赤ちゃんが顔をひっかく」ことがあります。
もう「傷だらけの人生」が始まったかのように、新生児の顔には無数のひっかき傷があります。
中にはうっすらと出血していたり、かさぶたになっていたり。
「赤ちゃんは最初自分で顔を引っかきやすいけれど、朝あった傷も夕方には薄くなるぐらい治りも早いから大丈夫ですよ」と説明しているそばから、新生児はギーッと自分の顔をつかんで新たな傷を作ってくれたりします。
時には自分の指を目の中に突っ込むほど、眼の近くをギューッとつかんでしまいます。
いやー、本当にドキドキさせられるしぐさのひとつですね。
<水の中から外の世界へ>
胎児として羊水の中で生活をしていた時には、胎児の爪というのは羊水でふやけておそらく皮膚と大差がなかったのではないかと、出生直後の新生児の爪を触って推測しています。
そして胎児も子宮の中では手で顔を触ったりげんこつを握って口に持っていったり、出生直後の新生児と同じような動作をしていることがエコーで確認できるようになりました。
それでも、出生直後の新生児の皮膚に子宮胎内でできたひっかき傷を観た記憶は、私はありません。
もしかしたら、新生児の方が一番とまどっているのかもしれません。
「今まで(胎内)と同じように手を顔につけただけなのに、固いもの(爪)が触れて不快なのはなぜなのか」と。
爪が外気に触れて固くなる。
それは新生児にとっては、体の一部の変化とともに、自分の体の構造を認識していくアンテナになるのではないでしょうか。
それまで一体だった皮膚と爪、あるいは指と顔の境界線が明確になるような。
<自分でも止められないー原始反射>
新生児が顔をひっかく時には、必ずと言ってよいほど思いっきり顔をつかむような行動がみられます。
そーっと顔をさわってひっかくのではなく、端から見たら「何で自分の顔なのにそんなことをするの?」と驚くような、粗雑といってよい大きな動きです。
ビクッとしてから、ギーッとつかんでひっかく感じです。
この「ビクッ」が、モロー反射(あるいはモロ反射)という原始反射です。
Wikipediaの説明を引用します。
脳幹レベルでの反射の1つであり、乳児に見られる正常反射の1つである。
出生直後より出現し、通常は生後4ヶ月ごろには消失する。
モロ反射の消失によって、頚定(首がすわること)や首の運動が可能となるとされる。
「出生直後より出現」ということは、胎児の世界ではビクッとしてギーッと顔をつかむような行動はなかったのでしょうね、きっと。
また「反射の概要」には以下のような説明があります。(最初の部分は省略)
・腕を外転、伸展させ指を広げる(第1相)
・内転、屈曲させ抱きつくような動きを見せる(第2相)
思いっきり「指を広げ」て、「抱きつくような動き」のはずが顔を思いっきりつかんでしまうのかもしれませんね。
このような動きは、母体などから落下しそうになった時、近くにあるものにつかまる事で、落下の危険を回避するという利点があると考えられる。
新生児の握力が驚くほど強いことは、物にぶらさがる力のテストでもわかります。
その「危険を回避する」ために力いっぱいの動きで顔をつかむわけなので、すごいひっかき傷もできるわけですね。
たぶん新生児にしても、「ひっかいたら不快だってわかっていても、どうにもとまらないんだよ。原始反射なんだから」という感じなのでしょう。
<見守る>
最初は顔面傷だらけでまるで漫画のやくざのような新生児の容貌ですが、生後2〜3日もするとだいぶひっかき傷が少なくなります。
そして日に日に「粗雑な動き」が少なくなり、手の指は精緻な動きへと進化を始めます。
それでも激しく泣いている時や泣きやんでジーとしている時、あるいは眠りに入ったばかりや睡眠の途中で、ビクッとして顔をつかむことはまだあります。
「手袋をしたほうがいいでしょうか?」
入院前に祖父母から聞いたのか、あるいは新生児用品の売り場にあって「かわいい」と思ったのか、入院時に準備されている方もいらっしゃいます。
以前は、「赤ちゃんは物にいろいろ触れて感じることで発達している部分もあるので、手袋は必要ないと思いますね」と答えていました。
でもある時、お母さんが「上の子の時に出血するぐらいひっかいた傷が痕になってしまいました」と手袋を準備して来られたことがありました。
本当に新生児期のひっかき傷が原因かどうかは確かめていませんが、反射が強くてひっかき傷が絶えない赤ちゃんには、手袋もありかもしれないと思うようになりました。
それでも大半の赤ちゃんは、「顔をひっかきそうな動きで、『危ないな』と思ったらそっとお母さんの手で防いであげてくださいね」という説明で大丈夫かと思っています。
「顔をひっかく」
おちおちと目を離せなくさせるこの新生児のしぐさもまた、人に見守られ、人に世話をされる存在として備えられた行動なのかもしれませんね。
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