人の体というのは、そもそも左右非対称にできているのではないかと思います。
外見上は左右対称のようでも、体の中は非対称の部分がたくさんあり、それが巧妙な位置に収まってバランスをとっているのかと解剖学の授業では感激しました。
体内には、左右二つある臓器があります。
たとえば、肺と腎臓です。
肺は左右二つありますが、通常左側の肺は右よりも小さくできています。左側に重要な臓器、心臓があるからですね。
腎臓も左右が違う位置にあり、肝臓という大きな臓器との位置関係が理由であることは、解剖学の授業で学んだような記憶があります。
あるいは、疾患でも左右差があります。
産褥期におきやすい深部静脈血栓症は左下肢に多いというのは産科の基本的知識ですが、これも下肢の血管が左右同じように走っているわけではないことが理由です。
胎児と新生児もまた、左右のさまざまなバランスがあり、非対称があるようです。
左と右。
それもまた不思議な世界ですね。
今回は胎児や新生児の左右のうち、ずっと気になっている臍帯の捻転についてです。
<臍帯の捻転>
助産婦学生時代の実習では、分娩介助後に胎盤・臍帯・卵膜を詳細に計測・観察して記録することも大事な学習でした。
その観察のひとつに臍帯の捻転がありました。
へその緒はホースのようにまっすぐではなく、ロープやしめ縄のように捻れています。
その捻じれ方が、左巻きか右巻きかを確認して記録します。
両手で臍帯を挟み持って、右手を手前に移動するような捻じれ方は左巻きです。
当時、教科書として使用していた「最新産科学 −正常編ー 改訂第19版」(真柄正直著、室岡一改訂、文光堂、昭和61年)には、臍帯の捻転について以下のように書かれています。
臍帯の大多数は捻転を示し、左捻転の方が多く、右捻転の約3倍である。この原因は血管の捻転で、血管の捻転の原因は臍静脈と臍動脈の発育が平行しないこと、臍血管が膠様物質および羊膜鞘よりも速やかに発育することなどによる。
卒業後も無意識のうちに捻転の左右を確認しているのですが、たしかに左捻転の方が多く、私の記憶ではあまり右捻転にはあたったことがないのです。
なぜ、1986(昭和61)年出版の古い文献を紹介しているのかというと、その後は臍帯の捻転について書かれた文献をなかなか見つけられないからです。
周産期関係の本で胎盤などについての専門書はほとんどないのですが、その中でも「胎盤が周産期医療上重要な鍵を握る器官であるという概念に薄い」と嘆かれながら書かれている貴重な本、「胎盤 臨床と病理からの視点」(相馬 廣明著、篠原出版新社、2005年)にも捻転に関しての詳細は見つけられませんでした。
「へその緒のはなし」という産科医の先生のブログがあります。
その中に「へその緒は右巻き左巻き?」というエントリーがあります。
その記事を読んでも、臍帯の捻転についてはまだまだ研究されていないようです。
<胎児にとって臍帯の捻転はどんな影響を与えるのか?>
上記で紹介した「胎盤 臨床と病理からの視点」の中で、臍帯の長さについて書かれています。
臍帯の長さは大体妊娠28週以降からは増えないという。
臍帯の長さは平均40〜60cm位にあるが、それが90cm以上とか30cm以下というような過度の長短であれば児に障害が起きやすい。
以前こちらの記事で紹介した超音波エコーの写真資料
の妊娠7週では以下のような説明が書かれています。
妊娠7週の胎芽は強く腹側に彎曲したC型をとり、頭部と尾部が接近しているうえに羊膜腔は狭く、臍帯が太くて短いために胎芽と区別するのは難しいことが多い時期です。
ほとんど臍帯がわからない妊娠7週以降、へその緒はぐんぐんと伸びて妊娠28週頃には数十センチの長さにまで成長するということです。
なんだかジャックと豆の木を思い浮かべてしまうのですが。
しかも時計まわりの方向へとまわりながら、胎児は何を思っているのでしょうか。
そして多くの胎児は左へと周り(時計まわり)、一部の胎児は右へと周る。
その差は何によって起きているのか。
あるいはその差は胎児にも何か影響を与えるのでしょうか。
臍帯の捻転を見るたびに、あー、本当に不思議な世界だと思います。
「新生児のあれこれ」まとめはこちら。