新生児のあれこれ 17 <人生最初の沐浴についての変化>

私が看護学生として産科実習をしたのが30年ほど前、そして助産師になって二十数年、その間に新生児の沐浴に対する考え方が大きく変化しました。


看護学生の頃、そして助産師になった頃は、分娩室には必ず沐浴槽がありました。
児娩出時間を見計らって適度な温度のお湯を準備しておくことは、ベビー受け(外回り)のスタッフの大事な仕事でした。


二十数年前に使った「母子保健ノート2 助産学」(日本看護協会出版会、1987)には、「分娩直後の児の処置」の中で以下のように書かれています。

沐浴


 児の負担を少なくするためには、沐浴より温かいベッドの上で清拭するほうがよい。沐浴をする場合でも、血液による汚れを落とす程度とし、短時間で終了させる。


教科書的には「沐浴よりは清拭するほうがよい」でしたが、私が勤務した病院では児の状態が安定していれば出生直後の沐浴は必ず行われていました。


<生後6時間以内の沐浴は避ける>


2000年より少し前だったのですが、当時勤務していた病院では小児科医の指示で、分娩直後の沐浴をやめて清拭をする、いわゆるドライテクニックを取り入れました。


初めての沐浴、産湯は出生翌日に実施するようになりました。


理由として児の低体温を防ぐことと、胎脂を取り去り過ぎないことだったと記憶しています。


他の施設でもだいたい同時期にこのドライテクニックと沐浴は生後1日以降に実施する方法が取り入れられていた印象があります。


最近になって、1997年にWHOから出された沐浴に関する推奨がこの時期の変化の背景にあることを知りました。


「ベッドサイドの新生児の診かた 改訂第2版」(河野寿夫著、南山堂、2009年)から、少し長くなりますが引用します。

4.沐浴


 わが国では臍帯切断後、産湯と呼ばれる温水浴により体に付着した羊水や血液・胎脂を洗い流すことが風習として行われてきた。沐浴(温水浴)はこの流れを汲み、身を清めるという儀式的な要素も含まれていると考えられる。一方、新生児は母の体温より高い子宮内温から子宮外への環境温へと急激な温度変化に適応しなくてはならない。体温調節が不安定な出生直後に行われる沐浴は、この適応過程に干渉する危険性があり、実際に沐浴後の体温低下が報告されている。沐浴は不感蒸散を増加させる結果、沐浴群で体重減少が大きかったとも言われている。出生直後の沐浴を契機に肺出血やショックを来たした報告例も散見されており、加温による心拍出量の増加と心負荷、動脈管閉鎖の遅れによる心不全、体血管抵抗拡張による右左短路の出現などの機序が推定されている。

 沐浴を行わなかった場合の不利益として皮膚感染症の増加が心配されるが、弱酸性の胎脂はむしろ感染防御に有益であるともいわれ、沐浴により胎脂を取り除いた群でむしろ皮膚細菌数が増加したとも報告されている。

米国小児科学会は、以前から乾燥法を推奨している。WHOも出生直後の温水浴は体温低下を来たすため不要であり、風習的に沐浴が必要とされる場合でも生後6時間以内の沐浴はさけるべきで、できれば2〜3日以降に行うことを推奨している。
 母親がB型やC型肝炎ウィルスHIVのキャリアであるなど特別の場合を除き、出生直後の沐浴は不必要であり、出生直後は清拭のみに留め、少なくとも6時間の観察を経過した後、もしくは翌日からの沐浴が適当と考えられる。ただし、医療者は胎脂が乾燥するまで感染力をもちうるものとして扱わなくてはならない。


<退院まで沐浴は行わない>


おおよそ2000年頃を境に、それまで赤ちゃんが生まれる時には「お湯を準備して産湯に入れる」というなじみの光景がなくなっていきました。


最近は、さらに退院までは沐浴を全く行わない方法を取り入れたり、沐浴はしても石鹸は使わない施設があることを耳にするようになりました。


次回はそのあたりを紹介してみようと思います。




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