新生児のあれこれ 27 <こんな状況でも大丈夫なことがあるのか>

世の中の雑菌などに対して出生時に初めて挑み、そして無防備な新生児です。


ですから「こんなことも起きるのか」と、未知の感染症がこれからも明らかにされていくことでしょう。


ところが反面、こんな状況でどうして新生児は無事だったのだろうとその免疫能に驚かされることもあります。


<お母さんの風邪・インフルエンザと新生児>


出産時にひどい風邪をひいて、咳き込みながらの出産になる方が時々いらっしゃいます。


新生児への感染、そしてもちろん同じ部屋で密接に関わるスタッフへや院内感染の対策に緊張します。


立会い出産予定のお父さんや上の子が風邪気味であれば、立会いを中止し、新生児に接しないようにすることもできますが、お母さんが風邪をひいた場合にはどうしようもありません。


また、出産後も完全に風邪の症状がおさまらなくても授乳や赤ちゃんの世話が始まります。


ただ、以前から根拠はないけれど漠然と「お母さんの風邪は赤ちゃんにはうつらない」といういわば思い込みのような雰囲気がありました。


お父さんや上の子からの風邪は簡単に感染して、そういう話をよく聞くのに不思議です。


でもそれは「お母さんの風邪はうつらないから大丈夫」ということではなく、母親から新生児への風邪やインフルエンザの感染とその免疫についてはまだよくわかっていない段階だといえるでしょう。


2009年の新型インフルエンザ発生から2010年3月までに、「日本での新型インフルエンザによる死亡者数は198人と報告され、さらに幸いにも新型インフルエンザによる妊婦の死亡者はいなかった」(「周産期診療指針2010」、東京医学社、p.256)そうです。


当時は新生児への感染対策に恐々としていたので、全国で新生児への感染例がないか情報をこまめにチェックしていましたが、新生児の感染報告はなかったと記憶しています。


でもそれも「新生児はうつらない」というわけではなく、まだまだわからないことがたくさんあるのだと思います。


<母親の風邪・インフルエンザと授乳、赤ちゃんの世話>


母体がインフルエンザに感染した場合の新生児への対応は、「原則、母子接触は母体のインフルエンザ発症後7日以降に行う」「原則母乳栄養を行う。(母体が発症している間は、第3者に搾母乳を与えてもらう。直接母乳は、母体のインフルエンザ発症後7日目以降に行う」など、基本的な考え方が示されました。(「小児内科 特集母乳育児のすべて」、東京医学社、2010年10月、p.1707)


また、通常の風邪の場合には、そのまま授乳を続行することが基本的な考え方です。


「母乳育児感染 −赤ちゃんとお母さんのためにー」(水野克己著、南山堂、2008年)の「Q.かぜをひいてしまいました。母乳育児中なのですが、子どもにかぜがうつるのではないかと心配です」に対する回答を紹介します。

かぜ症候群に罹患しても、通常どおり授乳は可能です。大人では無症候のこともあり、また、発症時にはすでに、児に感染が成立している可能性が高いことを考えると、この時点で母乳育児を中断しても意味がありません。


母乳にしてもミルクにしても、風邪をひいているお母さんが赤ちゃんに接する時には手洗い・マスクをして、赤ちゃんへの接触・飛沫による感染を少なくすることは大事でしょう。
また、可能であれば児の世話を他の人にお願いして、児への接触を少なくするとともに、お母さんも十分に休養をとれると良いと思います、


それにしてもゲホゲホと咳き込みながらの分娩のあと、新生児が感染徴候もなく元気に退院していくとホッとするとともに、どうしてうつらなかったのだろうと不思議でしかたがありません。





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