医療介入とは  89  <CTGは何を表しているかー陣痛の個人差>

胎児心拍のさまざまな変化から、胎児の様子、胎児の生活を想像することのおもしろさがあることは昨日書きました。


分娩監視装置のもう一つの視点、陣痛計もまたいろいろな興味がわいてきます。


<微弱陣痛とは何か>


陣痛計の意義は、陣痛間歇が何分で発作は何十秒あるかを測定することで、適正な陣痛がきているかどうか、つまり微弱陣痛や過強陣痛ではないことを確認することにあります。


「周産期医学必修知識第7版」(東京医学社、2011年)の「微弱陣痛の定義」(鈴木、1976)では、たとえば子宮口が4〜6cmの時点では「陣痛周期6分30秒以上」「陣痛持続時間 40秒以内」であり、全開近くになるとそれぞれ4分以上、30秒以内とされています。


でも、教科書的にはそうなのですが・・・というところが実際の臨床です。


教科書的ではない進み方はいろいろありますが、そのひとつに産婦さんの腹部では子宮の収縮(陣痛)を感じないのに進行する分娩があります。


ご本人は定期的な痛みを感じているのに、分娩監視装置では陣痛がうまくとれません。
陣痛計の当て方が悪いのかと、何度もつける位置を変えたり体勢を変えてみてもさっぱり陣痛の波形が出てこないのです。


お腹を触ってもあまり子宮収縮の固さが感じられないのですが、産婦さんはけっこう痛がっています。
パッとみた印象では微弱陣痛で、「何だ陣痛もあまりないのに(痛みに弱いのか)」と受け止められてしまいがちです。


でもどんどんと陣痛間歇は短くなって、急にいきみたい感じが出始めたりしてあわてさせる進み方があります。


こういう産婦さんはお腹よりも「腰が痛い」と、産痛を表現されるようです。


陣痛計の当て方が悪かったわけではなく、こういう進み方のお産もあるのではないかと感じています。



<ふくよかな産婦さんと痩せ型の産婦さん>


前回の記事でpakoさんの勤務先の助産師の「肥満妊婦などでは児心音がひろいにくく、つきっきりになってしまう」という意見を紹介しました。


ふくよかな産婦さんだと、胎児心拍だけでなく陣痛もとりにくくなります。


腹部の皮下脂肪が少ない方だと、通常の外測法による分娩監視装置では、少しの子宮収縮でも大きな陣痛波形として描かれやすくなります。
反対にふくよかなお腹だと、皮下脂肪の分、波形が小さく描かれたりほとんど波形がとれないことがあります。


ですから、ギューッとベルトで陣痛計をきつく固定する必要があり、かなり窮屈に感じられることでしょう。


陣痛計でうまくとりにくいときには、必ず手を当てながら子宮収縮の強さを確認するようにしていくうちに、陣痛がとりにくい産婦さんの状況も観察できるようになると思います。
ただ、客観的なデーターが残りにくいという問題点はありますが。


<胎児の位置と陣痛波形の変化>


分娩の進行に伴って、胎児の位置もどんどんと変化していきます。
最初は児背が産婦さんのお腹の左右どちらかに向いていたものが、次第に正中に移動していきます。


分娩が進行してくると、一旦、胎児のお尻が産婦さんのお臍あたりにぐんと突き出るような時期のあと、胎児が子宮底を蹴るようにしてつっぱりながら産道を下がり始めると、産婦さんのおなかは平坦になってきます。


こうした胎児の変化に伴って、陣痛を最も正確に感知する部分も変ってきます。


あるいは、陣痛の波形も変化してきます。
大きな山(陣痛波形)のあと少し小さい山が続く頃になると、胎児も産道を下降し始める時期のような印象です。


産婦さんにしたら「陣痛が終わったと思ったのに、まだ続く(やめて!)」と言いたくなる時期です。


また時々体験するのが、産婦さんが左右どちらかになると陣痛がものすごく強くなり、反対を向くと陣痛が弱くなる場合があります。


陣痛がものすごく強くなるとともに徐脈が出る場合もあって、そういう時は胎児が「この向きは苦しいよ」ということなのだろうと考えて、たとえ微弱陣痛になっても心拍数が下がらない姿勢をとってもらうようにします。


このように、陣痛と胎児の心拍数の変化は持続モニタリングをすることによって初めて全体像を観察できるのではないかと私は考えています。


そして分娩進行中の産婦さんの様子やCTGの記録、内診所見、そして出生時の状況(回旋や新生児の頭の大きさや形など)、そして臍帯巻絡や臍帯の長さ・付着部位あるいは胎盤などあらゆる情報から分娩を振り返るおもしろさというものがあります。


持続モニタリングの記録用紙を見直しながら、お産の陣痛の個人差をより正確に観察できるようにもっと技術を磨いていきたいと思うのです。