産後ケアとは何か 4 <産後ケア施設に関する研究の紹介>

こちらの記事で紹介した「助産雑誌」2010年4月号の特集の1記事、「産褥入院の現状と入院期短縮化の条件」の共著者である坂梨薫氏(横浜市立大学、母性看護)の研究結果報告書がネット上で公開されていました。

子育て支援に向けた産後ケア施設の開設要件の研究
  〜早期子育て支援の実現に向けて〜 」
http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2010/seika/jsps/22701/20530468seika.pdf

韓国の産後ケア施設の現状についてと、日本国内の産後入院期間の短縮化の現状と医療職・産婦それぞれのアンケート調査について書かれています。



<日本国内の入院期間短縮の現状>


産後入院期間の現状について、以下のように書かれています。

産後入院期間は短縮化傾向にあり、筆者が行った調査でも経膣分娩は、5〜6日であり、約10%の施設は4日以内と設定していることがわかった。

「4日以内」といっても、「3日」と「4日」の退院ではたった一日の違いでも母子の状況が最も変化する時期ですし、初産婦と経産婦では母子ともに「4日目」に対する保健医療的ケアの必要度は大きく異なります。


おそらく入院期間短縮を取り入れざるを得ない施設はどこでも、初産婦・経産婦それぞれに最低必要な日数を模索しながら決定しているのではないかと思います。


あくまでも私個人の印象ですが、初産・経産ともに産後3日の退院では早く、経産婦さんなら4日目退院は問題なし、初産婦さんはできるだけ最低5日入院したほうがよいという感じです。


このあたりは後日もう少し細かく考えていこうと思いますが、いずれにしても、横浜市の早期退院推進のように「産後3日目」という期間はどのような考えから導き出されたのか知りたいものです。


また産後3日の早期退院をすすめなければ、日本の産科病床は足りなくなるという予測があるのかも知りたいところです。




<母親の望む退院後の支援に関するアンケート>


ただ、従来どおり出産後に数日から1週間程度の入院が維持できたとしても、その後1ヶ月ごろまでの産褥入院の必要な方はいらっしゃいます。


その割合はどうなのでしょうか。


研究の中では、「産後4ヶ月未満の乳児を持つ母親が望む産後支援形態」についてインターネット調査を行った結果が書かれています。
初産・経産ともに258名、計516名からの回答の結果は以下の通りです。

退院後支援を受けた人は494人(95.7%)で、ほとんどは実母と夫からで、期間は4週間以上が約半数であった。
支援で最も重要とした属性は「退院後支援形態」であり、「主な支援内容」「期間・頻度・時期」「費用」の順であった。
水準は、「退院後支援形態」では”産科外来受診”、次いで”訪問看護””産後ケア”、同様に「主な支援内容」では”生活・育児・授乳指導”、「期間・頻度・時期」では”少ない”、「費用」では”安い”であった。
初産経産別にみると、経産婦は「主な支援内容」では外来受診では望めない”母体の休養”を好んでいた。

母親達が望む退院後の支援の組み合わせは、『産後外来を2週間以内に1回受診し、費用は5,000円から10,000円以内、産後の生活・授乳・育児指導を受ける』であった。

この結果の部分は、日々、臨床で感じていた問題点とほぼ一致する内容だと思います。


宿泊型の産後ケアシステムのほうが話題にされやすいのですが、この研究の目的に書かれているように、「行政政策の中に盛り込まれていない、産後1ヶ月以内の子どもを持つ家庭への育児支援を行う産後ケア施設の社会的需要の有無」という視点が大事だと言えます。


そういう「育児支援を行う産後ケア施設」が今までなかったわけでは決してありません。
出産した医療機関自治体、そして保健センターが、無料あるいは家庭に負担のないような低額の費用を決めながら、育児相談や母乳外来、家庭訪問あるいは産褥支援ヘルパー制度などを整備してきました。


産科施設が減少したから、早期退院を促進してその受け皿となる産後ケア施設を作るという方向ではいけないのではないかと思います。


早期退院をさせなくてすむように産科施設を増やし、さらに産後1ヶ月前後までの保健医療的な産後ケアとそれ以降の社会的支援としての産後ケアのシステムという継続的な視点にたったものを作り出していくことが大事なのではないでしょうか。


しばらくこの研究報告を参考にさせていただきながら、考えてみようと思います。





「産後ケアとは何か」まとめはこちら