産後ケアとは何か 6 <新生児のケアと新生児黄疸>

産後ケアを保健医療的に見た場合、褥婦(母親)のケアと新生児のケアに分けれられます。
社会的視点まで広げた産後ケアにすれば、家族へのケアも含まれるのかもしれませんが。


今回は、新生児のケアとは何か、考えてみたいと思います。


「新版 助産師業務要覧 第2版 実践編」(日本看護協会出版会、2012年)に「新生児のケア」という項があります。
その冒頭の部分を引用します。

 出生後から4週目までを新生児と呼び、特に早期新生児の1週間が母体外生活への適応期間であるため、経日的に起こっている適応過程が順調であるかスクリーニングする
 新生児のケアは、1.生理的に逸脱しないための予防的対応、2.新生児の能力・個性の観察、3.家族に焦点をあてることがポイントである。

そして「慎重な観察とケア」が必要であるとしています。


<生理的体重減少と新生児ケア>


具体的に観察とケアで、最も基本となるもののひとつが体重測定です。
上記の助産師業務要覧には以下のようにまとめられています。

体重測定
 体重は、児が退院するまでの間、毎日できるだけ同じ時間帯に測定をする。成熟新生児の場合でも、生後数日間で3〜10%前後の生理的体重減少が起こるが、ときには12%以上になる場合もある。体重減少率は10%以下が望ましいが、10%を越えたから直ちに異常とみなすのではなく、児の全身状態、栄養状態、母乳分泌量、また身長・頭囲などそれぞれの関係性からアセスメントする。

体重測定ひとつとっても、その「行間を読む」ことがいかに大変なことであるかと痛感するこの頃です。


この生理的体重減少をどのように考えたらよいか。
まだまだ臨床での様々な経験や判断を、言語化し共通の認識をまとめたものを目にしたことがないのです。


「10%を越えたから直ちに異常とみなすのではなく」。
それもひとつの見方なのですが、お母さんにすれば「まだミルクを足さない」と頑張らざるを得なくなるのはこちらの記事で書きました。


体重増加期に入る時期も、新生児によって2週間ぐらいの差があります。
ミルクを足しても、あるいは母乳もそれなりに飲んでいるようなのに体重が増えず横ばいのままの新生児もいます。


あるいは体重が減っているのでもう少しミルクを足したいと思っても、頑として口を開かずあまり飲まない新生児もいます。母乳にしても、ぐずぐずが多かったり浅い吸い方が続きやすい時期です。
あとで考えてみれば「頑として」いるほど元気なことが多いのですが、中にはどんどんと体重が減ってしまう場合もあります。


そういう新生児もだいたい生後2〜3週間で、急激に体重増加期に入ります。


生後1ヶ月までの新生児のケアで大事な点は、この体重増加期に入り安定した体重増加があることを確認することもひとつです。


現在の日本では、施設によって実際のフォロー方法や考え方に差があることが問題ではあるかもしれませんが、それでも出産施設のフォローと自治体の赤ちゃん訪問事業とで、この1ヶ月前後までの新生児を見守ってきました。


もう少し、この1ヶ月までの新生児の変化が十分に観察され、共通した判断や方法で対応できるようになるとよいのではないかと思っています。


<体重の変化と黄疸>


新生児の生理的体重減少といつからどのように増加期に転じていくのかについて、まだ十分観察がされていないのが現状だと思います。


そして、その体重の変化と「新生児黄疸」の関連についても、まだまだ十分に観察されていないのではないかと思います。


こちらの記事に書いたように、体重がなかなか増えない新生児、あるいは「母乳があまり出ていない」お母さんが急に変化し始めるのがこの生後2〜3週間目であることをしばしば体験します。


そういう新生児は、光線療法をするほどでもないけれどじわじわと黄疸が続いていることが多いです。
ビリルビン値にすると12〜16mg/dl前後が続いている印象です。
あるいは退院後、生後10日前後で黄疸が強くなり光線療法で入院する場合もあります。


ところが、周産期関係の本の中でこの新生児黄疸と体重の変化の関係や、新生児の飲み方の変化について書かれたものを探しているのですが、まったくと言ってよいほど注目されていないようです。


冒頭で紹介した助産師業務要覧でも、新生児ケアの項に黄疸について全く触れられていませんでした。


体重の増え方については、母乳が足りているかどうか授乳方法がどうかという視点に限られてしまっている記述ばかりです。


<新生児ケアが医療的ケアである必要性>


1ヶ月健診までの新生児のフォローは、「母乳外来」などで助産師・看護師によって行われている施設が大半ではないかと思います。


体重測定と「母乳」に主眼をおいた関わり方であれば、看護職だけでよいかもしれません。


ただ、この新生児黄疸の変化をもあわせて観察することの大切さが認識されれば、少なくとも生後1ヶ月までの新生児は、常に医師が関われる施設でフォローすることが大事であるという時代へと変化することでしょう。


<おまけ>


琴子ちゃんのお母さんのブログで、「2011年度版 助産所評価ハンドブック」から(7)」という記事がありました。


その中の助産所の機器リストに、黄疸の治療機器であるビリベッドが入っています。


以前、ある助産所に研修にいった助産師が、そこでビリベッドを使っていることをブログに書いていたのを読みました。
助産所で黄疸に対する治療行為がされていることにも驚きましたが、それを肯定的に受け止める助産師がいることも驚きでした。


さらに、日本助産評価機構が公にそれを認めるのはどういうことでしょうか?


「早期退院促進」をしてその受け皿として助産師による産後ケア施設を進めていけば、新生児黄疸への対応が問題点としてまず上がってくる可能性は容易に想像できます。
そのための布石なのでしょうか。


でもそれは、保助看法に規定された助産師の業務を逸脱することになるはずです。
新生児黄疸の診断と治療は、医療行為ですから。




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