産後ケアとは何か 7 <里帰り分娩の受け入れ中止と実母の手伝いの変化>

2004年以降、分娩施設が次々に分娩取扱いを止めました。
あるいは分娩は受け入れるけれど、里帰り分娩の受け入れは中止する施設が出始めました。


こちらの記事で紹介させていただいた医師ブログの新しいブログサイト、「勤務医 開業つれづれ日記・2」では2008年3月30日に「産科 休止一覧 8」として、2006(平成18)〜2008(平成20)年当時の分娩取扱い中止施設のリストが掲載されています。


その「休止」には娩取扱い中止だけでなく、月に受け入れる分娩数の制限、ハイリスクの受け入れ制限、そして里帰り分娩の中止ということも含まれています。


この里帰り分娩の中止と、実母の手伝いの状況の変化が、ここ10年ほどの変化としてあるのではないかという印象があります。


<里帰り分娩>


実家の近くの施設で出産して産後1ヶ月近くを実家で過ごすという里帰り出産は、特に初産婦さんでは一般的な方法でした。


諸外国と比較した正確な統計があるのかはわからないのですが、この里帰り分娩というのは日本の独特な方法だということは産科関係の本ではしばしば目にしてきました。


ところが当時分娩を取り扱う施設が減り、妊娠したかどうかまだ確定できないような妊娠週数で分娩予約をとらなければならなくなりました。
そして、その地域に住む方をまず優先し、里帰り分娩は見合わせてもらう方針の施設が出始めました。


出産後に遠方の実家に新生児を連れて移動するか、それとも実母に来てもらうか、あるいは夫と二人でなんとか頑張るか、という選択で悩む方が増えました。


あの2006〜2008年当時に比べると、最近はなんとかそれぞれの地域でやりくりすることに落ち着いてきたのでしょうか、「里帰り分娩を断られたので」とおっしゃる方が少し減った印象です。


一部の産科が再開したり、新規に分娩を受け入れる施設もありました。
産科施設が一つ増えれば、年間数百人の出産を請け負えるわけなので、その地域の負担は相当減ることでしょう。
ただ、まだまだ周産期医療の状況は厳しいのですが。


<実母の手伝いの変化>


統計や研究があるのかわからないのであくまでも私の印象ですが、私が助産師になってからの二十数年で実母の手伝いの状況が少しずつ変化しているように感じています。
あくまでも記憶に頼った不確かなものですが。


こちらの記事に書いたように、二十数年前は30代初産が少なく20代で出産している方が多い時代でした。


産婦さんの実母も、40〜50歳代の方がほとんどでした。
実母の健康上の問題や体力の問題で産後の手伝いを得られないという問題を抱えていらっしゃる方は、あまり聞かれなかったと思います。


私の勤務先では、6〜8割が30代の産婦さんです。20代の産婦さんが珍しいと感じるぐらいになりました。
すでに実母が亡くなった、あるいは病気を抱えているので手伝いを得られないという問題を抱えた方が増えました。


産後は産婦さんももちろん大変ですが、産婦さんと新生児の世話というのはかなり体力がいる仕事です。里帰りでも大変ですが、実母のほうが娘の住居に赴いて世話をするのも、住み慣れた地域とは違って何かと気苦労が多いものです。


そうした産後の手伝いをする実母が60〜70代ということも珍しくなくなりました。


こうした年齢層の変化と、もうひとつ「実母」の状況で変ったと感じるのが、実母が介護も抱えている方が増えてきたことです。


その理由のひとつとして、二十数年前の「実母」の世代というのはまだ実母の兄弟姉妹が多く、その親世代の介護は主に「長男の嫁」に任されていた時代です。
80才近い私の母やその周囲の女性を見ても「長男の嫁」にならなければ、案外、親や義父母の介護をしたという人は少ないのです。


ところが最近では、60〜70代で親やパートナーを介護している人が増えました。「老々介護」です。
とても実母にはそれ以上の負担はかけられない、という方がいらっしゃいます。


こういう傾向は今後もっと強まることでしょう。
すでに今の50代は核家族化・少子化の世代です。
親の介護を分け合うことができる兄弟姉妹が少なくなりました。
一人っ子同士の結婚であれば、場合によっては一度に4人の親の介護問題に直面します。


孫が生まれた時に、今までのように当たり前のように産後の手伝いをすることができる女性は減るのではないでしょうか。



産後ケアというのは、宿泊型施設を建てる前に、もう少し「ケアの社会化」という視点で深い洞察を必要とするのではないかと考えています。




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