産後ケアとは何か 17  <産褥(さんじょく)入院ー入院延長への補助>

産後ケアの中でしばしば使われる「産褥(さんじょく)入院」ですが、主に「一旦、産院を退院したあとに別の施設に入所して母体の休養を図る」といったニュアンスで使われているようです。


「産後ケア」もそうですが、この「産褥(さんじょく)入院」という言葉もまだ明確な定義はないまま広がっているように思います。


2002(平成14)年に日本産婦人科医会から出された「妊娠・分娩・産褥の保険診療と自費診療について」の中に、分娩における「入院」の考え方が示されています。

分娩に関わる入院料


保険入院の原則は、単なる疲労回復、正常分娩または通院には不便などのための入院ではなく、療養上必要と認められた場合であることは、「療養担当規制」に記載してあり、したがって正常分娩後の褥婦の入院は、原則自費となります。

異常分娩後の入院につきましては、正常分娩後に比べ著しく衰弱している等の異常状態があって、そのために入院診療を要する場合には、その入院は保険の対象として認められますが、正常分娩後と変わらない状態の場合の入院は保険の対象となりません。肛門、膣円蓋、直腸等に及ぶ会陰・膣壁裂傷縫合術や頚管裂傷縫合術が行われた場合には原則として2〜3日を保険入院としますが、その後は主治医の判断によります。その他の産科手術や処置、例えば吸引、鉗子娩出術や胎盤用手剥離術、分娩時子宮出血止血法等が行われた場合には原則2〜3日を保険入院とします。術後著しい変化や異常がある場合には、保険入院の日数は主治医の判断によります。

この分娩の入院料の自費と保険適応分の判断については施設間でも差が大きいようです。
「ようです」としかかけないほど、複雑で私自身がよく理解できていないのですが。


今まで勤務してきた施設では、出血が多く産後の回復が遅れている場合などに保険適応で対応して、少しでも入院期間を延ばせるような配慮をしていたところもありました。


ところが、私たちが「あと2〜3日でも退院延期して休養を取れたり、もう少し赤ちゃんに慣れたら退院後の生活がよりスムーズにいけそうなのに」と思っても、それは医学的な異常ではないので自費になってしまいます。


自費での入院日は、1日およそ2〜3万円ぐらいが平均でしょうか。
そして医療施設の入院費の計算はホテルのような「1泊いくら」ではなく、あくまでも1日単位ですから1泊すると倍額になります。


また、一旦退院した母子を再入院させる場合には、退院後に何らかの感染を受けた可能性も否定できないので、通常は個室で同室してもらう判断になると思います。さらに個室料金がかかってしまいます。


たとえベッドが空いていて対応できる状況でも、なかなか病院・診療所で入院期間を延長したり、一旦退院した母子を受け入れる産褥入院ができない理由には、まずこの経済的負担があると思います。


<「産褥入院」が適していると思われるいろいろなケース>


こちらの記事で、「『宿泊型の産後ケア』として産褥入院が必要な場合も確かにあると思います」と書きました。


数日でなくてよいのでせめて2〜3日の入院延長ができたらと思うことをあげてみます。


退院日前後に、黄疸のために光線療法が必要になる赤ちゃんがいます。
退院が延期になったり、一旦退院後に再入院が必要になります。
あるいは低出生体重児で、ある程度体重が増加し始めるまでは退院の許可が下りない場合があります。


また出生直後に新生児を高次病院へ搬送した場合、回復して戻ってきた頃には退院になってしまうことが多いのですが、お母さんは赤ちゃんの世話に慣れるまもなく退院になってしまいます。


こういう場合に、できるだけお母さんと一緒にそのまま入院できたらと思うのですが、母の入院費用を聞いて二の足を踏まれる方がほとんどです。



初産婦さんの場合だいたい産後3〜4日に乳緊(おっぱいの張り)が一時的に強くなり、その後落ち着いて、退院時には自律授乳のペースに少し慣れて意退院していきます。
ところが退院直前になって乳緊が強くなり、授乳への不安が大きくなる場合があります。
こういう方も「あと2〜3日でもいいから入院できたら」と思うのですが、皆さん、入院費用を考えて退院をされます。
電話で対応したり、翌日来院してもらったりしていますが、産後の外出というのは想像以上に負担のかかることです。


産後の体調がなかなかおもわしくない方がいます。
産後の尿閉・尿漏れや膀胱炎、腰痛・恥骨痛、あるいは創痛など「産後のマイナートラブル」とされているものですが、私達の想像以上にお母さんを精神的に落ち込ませるものではないかと思います。
「このまま退院して大丈夫だろうか」「赤ちゃんの世話も十分にできないのではないか」と相当葛藤されています。
あと数日、ゆっくりここで休んでもらえたらと思いますが。


経産婦さんの場合は、むしろ上の子や家のことが気になって早く帰りたいと思われることが多いですし、産後の回復も初産時とは全く違って順調なことがほとんどです。
ところが退院直前になって上の子あるいは夫が感染症にかかってしまい、赤ちゃんを家に連れて帰れないことがあります。
そのまま落ち着くまで退院延期ができたら・・・と思うことがあります。


もちろん財源が際限なくあるわけでもないですし、病院もベッド削減や分娩施設の集約化の流れですから、今後はますます早期退院の方向へ向かうのでしょうか。


それでも、「あと2〜3日、あるいは数日、退院を延期できたら」と思う方は実際には、そんなにしょっちゅういらっしゃるわけではありません。
そういう場合に、臨機応変に、費用を気にしないで出産した施設にいられたらよいと思います。


「産褥入院」。
まずは、入院延長した場合の補助が出るようにして欲しいと思います。
出産した産院でそのまま過ごせることは、何にもまして安心感があることでしょう。


<入院延長に対する補助の例>


ネットで調べてみると、この入院延長に補助を出している自治体とそれを活用している病院もあるようです。


長野県中野市「産後ケア事業」では、「母子の健康の確保および育児支援を図るため、産婦および新生児が出産退院後の一定期間、助産期間(病院、産婦人科医院、助産所)に入院して保険指導を受ける経費の一部を補助します」として、一日12,500円の補助を出しているようです。


「出産退院後」とはなっていますが、大事な点は病院・産婦人科医院が対象になっている点です。


もうひとつ、JA新潟県厚生農業組合連合会 豊栄(とよさか)病院では「3南病棟 産後ケア始めました」というお知らせがありました。

新潟市の産後ケア事業として、「出産後の回復や育児などに不安をお持ちのお母さんに、退院後、医療機関等に入院」することに補助がでるようです。


同一施設であれば、「退院後」というのは書類上のことで、実質「入院延長」にできるのかもしれません。


自治体によっては、産褥入院への補助が指定の助産所のみになっているところもありました。
でもやはり継続性を考えた時に出産した産院で使えることや、新生児の変化にすぐ医療介入ができるように病院・診療所で補助が使えることが大事ではないかと思います。


まずは、このシステムが全国に広がって欲しいと思います。





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