災害時の分娩施設での対応を考える 5  <災害時の「授乳支援」>

日本看護協会の「分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド」の「災害に関する助産師への教育」の中には、今までのの記事で紹介した「フリースタイル分娩」「院内助産」以外に「早期の母乳栄養確立に向けた援助」という項があります。


今回はその部分を考えてみようと思います。


<「母乳栄養確立」とは何か>


上記の作成ガイドには以下のように書かれています。

4.早期の母乳栄養確立へ向けた援助
□災害時はライフラインが閉ざされ、水・ミルクの入手が困難となる。また、哺乳瓶の洗浄も行えない状況となる。(ライフラインの復旧までに時間を要することが多い)
□入院中、早期に母乳栄養が確立できるよう授乳指導を行う。
□妊婦へ災害を見据えた対応としての、母乳育児推進についても説明する。

対象は、分娩施設に入院中の分娩後数日ぐらいまでの母児です。


こちらの記事で書いたように、初産の場合、分娩後2〜3週間ぐらいまではミルクを補足しながら待ったほうがよい場合が半数近くいらっしゃる印象です。


こういう方も、分娩後数日ぐらいならなんとか「母乳だけで」できないこともないでしょう。
入院中の母乳率は100%にすることもできるでしょう、統計上は。



ところがそのままミルクを足さないでいると、児が体重増加期に入らないどころか著しく減少してしまう場合もあります。また、黄疸の引き方も長引く可能性があります。


「母乳栄養の確立」というのは、そのあたりまでの予測を踏まえた対応が必要になるわけです。


平時でさえ、生後2〜3週間ぐらいまでミルクが必要な場合があるのに、災害時に母乳だけで大丈夫になるような授乳指導はあり得ないのではないでしょうか?


<災害時の栄養管理とは>


doramaoさんの「とらねこ日誌」2013年6月16日の記事、「『?それも健康の話だったの?』どらねこ&なるみーたカフェダイジェスト」の中に「授乳と栄養」という話がありました。


母乳のエネルギーは500kcalで、重労働であるというお話です。

今度は授乳のおはなしです。母親がねそべって子供に母乳を与えている様子をみて、家で横になっておっぱいをあげるなんてたいしたこと無いでしょ、なんて話をする人がいるようなのですが、アレって実は重労働なんですよ?という話です。ジョギングで500kcal消費するとしたら、どれくらいの長時間走ることになるでしょう?2時間ぐらい走らないといけないかもしれません。

もちろん出産直後の母乳分泌はまだ少量ですが、経産婦さんであれば産後数日ぐらいで1日に700〜800mlぐらい分泌している可能性もあります。


もし私が得意の背泳ぎで500kcalを消費しようとしたら、75分ぐらい黙々と3000mを泳ぐぐらいの運動量になります。


母乳に必要なカロリーをこうして運動に置き換えてみると、授乳は重労働だということがわかりやすいですね。


災害発生直後にはそれに見合った栄養と水分補給ができないことは、こちらの記事で母子保健情報の「災害時の栄養管理」の資料を参考に書きました。


<すべての授乳方法に対応を>


私たち医療従事者は、母乳哺育にもミルクを使う母児にも、全ての授乳方法に対応する必要があります。


「災害時には水・ミルクの入手が困難」「哺乳瓶の洗浄ができない」から母乳だけで・・・ではなく、清潔に授乳できるミルクと哺乳瓶を確保しておくことが大事な災害対策の看護管理ではないでしょうか。


この「作成ガイドライン」の参考欄には、母乳育児推進のための団体がリンクされていましたが、日本小児科学会から出された「避難している妊産婦・乳幼児の支援ポイント」の「授乳」の部分や日本小児保健協会の「災害時栄養情報」のようなミルクを必要としている人たちに有益な情報をなぜ入れないのでしょうか。


そして「分娩施設においても「水・ミルクの入手が困難」「哺乳瓶の洗浄ができない」という問題点に対しては、こちらこちらで書いたように、液状乳児用ミルクと使い捨て哺乳ビンの普及が一番の解決策だと思うのですが。


ミルクを必要としている母児に最も身近に接するはずの助産師が、自分達の信念を優先させることで本当に必要なことが見えなくなってしまっているのではないかと思います。


あの未曾有の大震災の教訓が「母乳育児の確立」になってしまったこと、本当にそれで大丈夫でしょうか?





「災害時の分娩施設での対応を考える」まとめはこちら

「液状乳児用ミルク関連のまとめはこちら