「助産雑誌」2012年6月号(医学書院)の「特集 東日本大震災の記録」では、「分娩施設における防災マニュアル作成ガイド」策定までの日本看護協会の取り組みが紹介されています。
その中で、以下のように書かれています。
防災マニュアルの現状分析を目的として、2011年9月から11月の期間で22都道府県の74施設より、産科病棟の防災マニュアルを収集した。74施設の内訳は、総合周産期母子医療センター8施設、地域周産期母子医療センター22施設、一般病院10施設、診療所2施設、施設区分不明が32施設である。
有床診療所というのはベッド数19床(しょう)以下の施設です。
厚生労働省が出している「平成22年度我が国の保健統計」の「2.医療施設の動向」36ページに「2-13都道府県別にみた分娩を実施した施設の状況ー平成20年ー」がありますが、これをみると全国平均では一般病院と一般診療所の分娩取扱いの割合がほぼ半数です。
都道府県によっては、一般診療所の分娩取扱いの方が多いところもあります。
(直接リンクできないので、上記名で検索してみてください)
日本の周産期医療は診療所で約半数の入院・分娩が行われているという点が、他科(内科や外科など)の入院・治療と大きく異なる特殊性ではないかと思います。
<産科診療所の実際>
私自身が10年ほど前に総合病院から初めて産科診療所に勤務してみて、いろいろと「勝手が違うな」と感じることがありました。
良い点、何よりも私が気に入っている点が小規模な施設で、地域の中でつながっている関係の中で仕事ができるという点でした。
私がしたいと思ってきたケアには、これくらいの規模が適正であると思いました。
そして人手が足りなくなると、どこからか近隣の人たちや「以前ここで出産しました」という方の中から職員として働いてくださる方が現れることに、何度と無く助けられました。
またそういう方たちは思い入れをもって勤務をしてくださる方々なので、多少勤務条件が悪くても長く留まってくれます。
ただ、そういう家庭的ともいえる雰囲気の中では「リーダシップ」を養う機会というのが少ないかもしれません。
事務、厨房、看護、それぞれの場であの時に何をすべきかということをなかなか自主的に動ける人が育っていなかったと、あの大震災の時に感じました。
総合病院ではあたりまえのようにそれぞれの部署での災害対策というものが訓練されていたのですが、そういう経験がなければ、職場で自分が何をすべきかが見えてこないのかもしれません。
これはあくまでも私の勤務先の話なのですが、全国の産科クリニックはどうなのだろうか、同じような問題を抱えているのだろうかととても気になっています。
<産科診療所での防災準備>
正確な統計がないのですが、19床以下の産科診療所で「8床」と「19床」の二つに大きく分かれるのではないかと思います。
おそらく、産科医師の人数によって8床規模か19床規模にするかが決まるのではないかと思います。
いずれにしてもその規模で、事務と厨房スタッフに総合病院で防災訓練まで受けた専門スタッフがいる施設はどれだけあるのでしょうか。
水道・光熱、そして非常物品を確保できるようなスタッフと、もし長期間にわたって水道・光熱が使えない場合の入院患者さんへの食事に対応できるスタッフ、それがあの大震災の時に私の勤務先ではとても必要だと感じました。
あれだけの経験をしてもなお私の勤務先では、その2点での防災準備が遅々として進んでいません。
「産科診療所」で災害に備えて何が必要なのか。
マニュアル作成以前に、あの大震災の時の産科診療所の生の声を知りたいのです。
産科診療所に勤務する助産師・看護師というのは看護管理だけでなく、看護以上にその施設の他職種の様々な問題解決まで責任を負っている施設が多いのではないでしょうか。
大きな産科施設だけでなく、分娩の半数がこうした小規模施設で行われているという現状抜きには、日本の周産期医療の特殊性にあわせた本当の防災対策にはならないのではないかと思います。
「災害時の分娩施設での対応を考える」まとめはこちら。