災害時の分娩施設での対応を考える 11  <放射性物質の不安と対応についての記憶>

2011年3月11日の東日本大震災、そしてそれに続く翌12日の福島第一原子力発電所の水素爆発のあとは、自分自身が現実に直面しているはずなのに現実感を感じられないようなおかしな感覚がしばらく続きました。


巨大地震のあとの大きな余震による大きな被害の可能性、計画停電の影響、そして食品をはじめとした生活必需品の確保にくわえて、原子力事故の成り行きしだいによっては首都圏からの避難の可能性も出てきました。


それまでの人生で考えたこともない事態でした。


あの頃の私、あるいは首都圏で生活してた人たちは、どのように情報を得て、どのように判断をしながら過ごしたのでしょうか。


wikipedia「福島第一原子力発電所事故の影響」を読み返しながら、当時の様子を思い返してみようと思います。



wikipediaに書かれているような「放射性物質による環境・食品・人体への影響、社会的・経済的影響、住民の避難および風評被害」、まさにその点でどのように情報を得てその情報からどのように判断するか、私たちはあの未曾有の大震災に続く福島第一原子力発電所事故から何か教訓を得なければいけないと思います。


とくに繰り返してはいけないような過ちは、大事な教訓となることでしょう。



放射性物質による水源汚染>



もう記憶はあいまいになっているのですが、大震災の直後の数日はスーパーに行っても特に野菜などの生鮮食料品がほとんどありませんでした。
首都圏の生活が、いかに近隣県の一次産業と大きな流通機構によって成り立っているのかを痛感する日々でした。


でも、そのうちに野菜が入荷され始めました。
普段はそのスーパーでは端境(はざかい)期以外にはあまり目にすることのない、九州・中国・四国といった西日本からの野菜がほとんどだったことが印象に残っています。
そうして野菜が買えるようになり助かりました。


日本の農産品の流通機構の底力のようなものを感じて、これで当分はなんとか生き延びるための食糧も大丈夫だろうと励まされました。


反面、日ごろ購入している東北や関東の野菜はほとんど見かけなくなりました。
交通網・燃料の流通の問題や農家自体が復旧作業に追われて出荷できなかったり、加えて放射性物質の問題で作物はあっても出荷できない状況に農家の方々や流通関係の方々の苦労と心痛はいかばかりかと思う毎日でした。


勤務先でも入院中の方への食事も水もなんとか確保する見通しが立った頃に、次の問題がおきました。

東京都葛飾区の金町浄水場で2011年3月22日午前9時、水道水に210Bq/kgの放射性ヨウ素131が検出された。この給水範囲である東京都23区、武蔵野市、町田市、多摩市、稲城市三鷹市では乳児の水道水摂取を控えるように呼びかけた。
(中略)
24日の検査分は79Bq/kgと暫定基準値を下回ったと発表された。
(上記wikipediaより)


このニュースは、リアルタイムに家で知ったと記憶しています。
乳幼児のいる家庭が水を確保できるようにと、在庫放出するかのようにペットボトルを販売した店が多かったのではないかと思いますが、その後すぐに出勤する際にはあっという間に売り切れていた様子だったことはこちらの記事で書きました。


横道にそれますが、あの時、行政のどの部署も手一杯の状況で大変だったとは思いますが、政府や自治体が乳幼児のいる家庭が優先して購入できるような、たとえば母子手帳を持っていった方を優先するとか、規制をかけられたら良かったのではないかと思いました。


そうすれば、必要な家庭に必要な水が届くとともに、「この数値では大人は問題ない」というメッセージも広げられる良い機会になったのではないかと思います。



<データーをどのように判断するか>


私自身はこのニュースを聞いた時に、とうとう水源の放射線汚染という問題がでてきたかと思いました。


原子力発電所の水素爆発のあと、テレビでもネット上でも刻々と放射性物質のデーターが公表され、広がりつつあることが理解できました。


正直なところ、水道水に210Bq/kgの放射性ヨウ素が検出されたということ自体はまだまだ勉強不足で、そのリスクをどのように判断したらよいかはわかっていませんでした。


ただ、以前玉川上水やダムに関心があったことが幸いして、都内の水源は荒川系と多摩川系の二つに分かれているため、とりあえず自宅の水源はあわてる必要はないと判断しました。


ただし、自宅と南関東の別の水源から水が供給されている勤務先の水源が汚染されるのは時間の問題であることも、推測できました。


それでも原発事故がおきて10日間の間に、成長途中にある子どもと成人とでは放射性物質のリスクが異なることはさまざまな情報から理解していましたし、基準値というものが「ただちに危険」ではなくかなり余裕がある数値であること、また放射性被曝についての考え方も理解できました。


総合的に考えて、あわてる必要はないけれども子ども達にはできるだけ放射性ヨウ素が含まれた水道水を摂取しないように対応する、それがあの時点で優先される対応だと理解できました。


勤務先のクリニックでは直後から、その自治体から公開されている水道水の放射性ヨウ素のデーターと注意喚起について事務スタッフに毎日確認してもらうようにしました。


ペットボトルやウォーターサーバーの水はできるだけさらに非常事態に備えて備蓄する必要があったので、調乳に水道水を使用するかの判断をしばらく迫られました。




「災害時の分娩施設での対応を考える」まとめはこちら