災害時の分娩施設での対応を考える 19 <私自身の得た教訓のようなものー全体像をとらえる>

こちらの記事で、災害時にまでフリースタイル分娩や院内助産という表現が用いられていることに疑問を感じたことが発端で、災害時の分娩施設での対応を考え始めました。


東日本大震災原子力発電所事故という、私自身は直接の被害は少なかったけれども、それでも私生活も仕事場も非常事態であった2〜3ヶ月ほどを思い出しながら何が必要なのか考えていました。


まだ途中の段階ではありますが、私自身は次の3点が教訓になったと思います。

・全体像を常に意識してとらえる
・「現実的対応」とは何かを考える
・デマが広がらないように注意する


今回はこのうちの「全体像を常に意識してとらえる」を考えてみようと思います。


<「全体像を常に意識してとらえる」>


これは情報をどのように得るか、ということにつながります。


大災害であればあるほど、驚きや不安、悲嘆などありとあらゆる感情が噴出するのでその災害の全体像を見失いやすくなる可能性があります。


どのような災害で、どれだけの規模か。
インフラへの影響や、復旧のめどはいつか。
この災害によって予測される健康被害は何か。


とりわけ自主防災が必要なフェーズ0(超急性期ー救出救助期、数時間)で、正しく判断するための情報源は何か。
そしてフェーズ1(超急性期ー早期、72時間)では、今後の見通しをどのような情報によってたてるのか。



さらに原子力発電所事故や大規模な津波といった想定外の被害の全体像を把握する必要があります。


今後起こりうる火山の大噴火なども、被害の全容を正しくデーターを集めて冷静に判断を求められることでしょう。


<地域の周産期ネットワーク>


特に、電気と通信網が長期に使えない可能性があれば、分娩施設としてはただちに地域の周産期システムを再構築していく必要があります。


輸液ポンプが必需品である切迫早産入院中の妊婦さん、あるいは帝王切開の可能性がある産婦さん、あるいは搬送のリスクがある妊産婦さんや新生児はできるだけ早いうちに高次医療機関への紹介や搬送を決断する必要があります。


リスクのある妊産婦さんを自施設で抱え込まない判断も大事になりそうです。
ただし高次病院のキャパシティもあるので、かなり難しい判断を迫られることになる覚悟が必要になることでしょう。


今までは地域の産科診療所間で、看護関係者の横の連携というが全くないところがほとんどではなかったかと思います。
今後は、防災の視点から協力関係を結べるようになるとよいのかもしれません。



<医療の指揮系統を意識する>


広範囲の住民に影響を与える可能性があり、刻々と変化する状況を把握しなければならなかった事態として、2009年の新型インフルエンザの流行がありました。


当時も、妊婦さんや新生児への対応など、いままで遭遇したことのない状況の中で、厚生労働省国立感染症研究所あるいは日本産婦人科学会などの出す情報を参考にしながら状況を把握していきました。


ただ、情報は「医学」の視点でした。


私たち看護職がこれらの情報をもとに、住民の方たちの健康被害を防ぐために具体的な対応はどのようにしたらよいか、どのように説明する必要があるかといった生活の視点にたった方向性を示してくれるところがありませんでした。


このような広域の住民に多大な影響を与える災害や感染症、あるいは今まで経験したことのない健康被害が予測される状況が発生したときに、全国の看護職に対して、政府や専門家の出す情報を一本化して知らせてくれる看護の専門機関を設立して欲しいと痛切に感じています。



そしてその医学的な情報をもとに、看護職がすぐに実践できるより実際的・具体的対応をリアルタイムに示し、ネットでその情報を得られるとよいと思います。


また事態が収束してからも、実際にどのような困難があったか、どのように対応したか、うまくいったことだけではなくこまかな反省点まで現場の報告を収集し過去の経験を蓄積できる体制を備えられるとよいと思います。


そしてそれらの過去のデーターも含めていつでも看護職が自由に読むことができれば、常に災害時の医療の指揮系統を意識し、災害の全体像を把握しながら対応する災害時の看護の底力になっていくことでしょう。




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